細胞内における転写因子Sox2の揺らぎをNMRで高速に解析するために、平成26年度は、NMR測定のための試料調製法とNMRデータ解析法の開発を進めた。まず試料調製法では、測定対象のタンパク質に連結させて細胞膜を透過させるためのペプチド性タグ(細胞透過タグ)の改良を行った。元々、細胞透過が困難であるGB1タンパク質をテストサンプルとして、従来用いているTAT(C(Npys)-YGRKKRRQRRR-NH₂)に加えて、N-E5L-TAT(GLLEALAELLEYGRKKRRQRRR-C(Npys)-NH₂)とCM18-TAT(KWKLFKKIGAVLKVLTTGYGRKKRRQRRR-C(Npys)-NH₂)を試した。N-E5L-TATとCM18-TATの両者ともに細胞膜にポアを形成することが知られているペプチドである。結果として、CM18-TATが極めて効率的にGB1を細胞内に透過させることが分かった。 続いて、間引いて2次元NMR測定(非線形サンプリング法)したNMRデータを計算的に復活させるSIFT法の改良を行った。従来のSIFT法ではNMRスペクトルの虚部データにアーティファクトを発生させることが問題であった。そして、この問題のために、あまり多くデータを間引くと綺麗にNMRスペクトルが再構築されなかった。そこで、今回は虚部スペクトルが全て0になるバーチャルエコー法を導入した。バーチャルエコーとは、NMRの時間ドメインデータ(FID)を時間反転したものをFIDの先に連結したものである。ただし、虚部データは強度の正負を反転させる。このバーチャルエコー法を導入することによって従来法よりもさらに半分のデータポイント数でも綺麗にスペクトルを再構築できることがわかった。
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