研究課題/領域番号 |
25650057
|
研究種目 |
挑戦的萌芽研究
|
研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
小椋 俊彦 独立行政法人産業技術総合研究所, バイオメディカル研究部門, 主任研究員 (70371028)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 走査電子顕微鏡 / レクチン / 窒化シリコン / バクテリア |
研究概要 |
本年度は、窒化シリコン薄膜上に糖鎖溶液をアレイ状に滴下する実験を行った。窒化シリコン薄膜は、厚さが50nmと極めて薄いため、少しの衝撃でも膜が破れてしまい、その溶液滴下には慎重を期する必要がある。糖鎖溶液は、先端が数μmのガラス微小管に入れ、これに空気圧を加える方法と、電位勾配による滴下方法の二つを比較した。空気圧を加える方法では、先端から糖鎖溶液が球状に溢れ出すが、薄膜上への滴下は出来なかった。一方、電位勾配を加える方法では、窒化シリコン薄膜とガラス微小管の間に約1000Vの電圧を加えることで、薄膜を破壊することなく、滴下出来ることが確認された。これにより、窒化シリコン薄膜上の任意の位置にスポット状に糖鎖溶液を滴下でき、複数のアレイ状の形成も可能となる。次に、溶液中の生物試料を同時に観察するために、非染色・非固定の生物試料の観察技術の開発を進めた。従来の方法では、電子線やX線が直接生物試料に入射されるため、ダメージが極めて大きく、生きた状態での観察は極めて困難であった。そのため、本研究では、窒化シリコン薄膜上部にタングステン層を形成し、この上部に30~60kHzで変調した走査電子線を入射した。タングステン層に入射された電子線は、散乱・吸収され、入射部位に電位変化を生じる。こうした電位変化は、10μm程度の水溶液層を透過し、ホルダー下部の検出端子により検出した。これにより、水溶液中の生物試料をそのままの状態でダメージ無く観察できることが確認された。電子線の変調には、本予算により購入した専用の偏向板を走査電顕に導入し対応した。これにより、そのままの生きた生物試料を水溶液中で観察することが可能となり、今後はレクチンアレイと併用することで、生きたバクテリアの分別と観察が可能になると予想される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
窒化シリコン薄膜上にレクチンアレイを形成するため技術を開発した。レクチン溶液を封入したガラス微小管と窒化シリコン薄膜間に約1000Vの電圧を加えることで、窒化シリコン薄膜を壊すことなく、レクチン溶液を滴下することが可能であった。また、水溶液中の生物試料をそのままの状態でダメージ無く観察する技術を開発した。これにより、非染色・非固定の状態でバクテリアを観察することが可能となり、当初の目標であるバクテリアとレクチンの高分解能観察に繋げることが出来る。こうした成果は、1本の国際誌に発表した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、複数のレクチン溶液からなるレクチンアレイを窒化シリコン薄膜上に形成し、水溶液中のバクテリアの結合状況や変化を観察する予定である。そのためには、レクチンアレイを形成した窒化シリコン薄膜と水溶液を封入する観察ホルダーを開発する。さらには、水溶液中を透過する電位変動の検出を、より高いSN比で行うため、高増幅度で低ノイズのアンプに改良する。さらに、これらのシステムを高分解能FE-SEM内に導入することで、分解能の向上を図る予定である。
|