細胞やバクテリア、ウィルス、タンパク質の表面は、多種・多様な糖鎖により覆われている。こうした糖鎖は、異物の認識や排除、結合や感染等の、生物の本質的な機能発現に大きな役割を担っている。そのため、生物表面の糖鎖の状況を把握することは、生物学的にも重要な意味があり、創薬にも結び付くものと予想される。 こうした目的のため本年度は、窒化シリコン薄膜上にレクチン溶液の相互作用やフィブロネクチン等の結合タンパク質の効果を解析した。バクテリアや細胞の糖鎖とのインターラクションを水溶液中で直接観察し、その相互作用を解析するためには、分解能を向上させる必要がある。そこで本年度は、窒化シリコン薄膜を現在の50nm厚から20nm厚へと薄層化し、この上にレクチンやフィブロネクチン等をスポット状に塗布する、あるいは層状に積層化し、ここに細胞やバクテリアを吸着させた。こにより、分解能は8nmを切るレベルまで向上し、細胞の吸着状況や細胞内部の構造、微小管等のチューブ状構造を観察することが出来た。さらに、バクテリア等を培養しながら観察するシステムを開発し、レクチンやフィブロネクチン等の吸着状況の詳細な観察が可能となった。また、撮像システムも改良を行い、より高精度な初段アンプを用いることでSN比の向上行い、さらに撮像時間も80秒から40秒へと半分に短縮させることができた。こうした一連のアレイ素子や観察ホルダーさらに観察システムの開発により、レクチンを含めた吸着タンパク質全般の相互作用や構造的な分析を可能とし、当初の目標を達成したものと考える。
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