研究課題/領域番号 |
25650067
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡本 浩二 大阪大学, 生命機能研究科, 特任准教授(常勤) (40455217)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / ミトコンドリアDNA / 酵母 / 合成生物学 / オミックス |
研究実績の概要 |
ミトコンドリアは太古の昔、酸素呼吸能力を獲得した細菌が宿主細胞に共生し、そのゲノムの大部分を宿主核に移行させることで小器官化したと考えられている。現存するほとんどの真核生物のミトコンドリアには呼吸鎖関連の遺伝子をコードしたゲノムが今も存在しており、活性酸素種による酸化障害を受けて変異ゲノムの蓄積を引き起こし、難治疾患であるミトコンドリア病や老化の原因となる。
本研究では、出芽酵母のミトコンドリアゲノムにコードされた呼吸鎖関連の遺伝子全てを核内の染色体へ組み込み、細胞質で合成したタンパク質をミトコンドリアへ輸送するシステムを構築して、ミトコンドリアゲノムを持たずに呼吸増殖する「ミトコンドリア・ゲノムレス細胞」を創成する。加えて、この改変細胞をオミックスの手法を用いて解析し、ミトコンドリアゲノムの酸化損傷のリスクから解き放たれた細胞が獲得する性質を解明する。
上記の目的を達成するために、平成26年度においては、(1)人工合成した遺伝子カセットをプラスミドにクローニングすることに成功した。また、(2)ミトコンドリアDNAの目的遺伝子に変異をもつ酵母細胞に対して人工遺伝子プラスミドを導入し、プラスミドから転写・翻訳されたタンパク質を検出した。(3)一方、人工遺伝子プラスミドによる変異細胞の表現型の回復は部分的であり、さらなる改良が必要であることがわかった。とりわけ、細胞質で合成された目的タンパク質のミトコンドリアへの標的化・膜透過・ミトコンドリア内膜への組込みの各ステップについて、最適化を目指してゆく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成26年度に想定した研究目的の達成度については、当初の計画よりもやや遅れていると評価している。これは、核ゲノムコード型に改変した遺伝子の転写・翻訳に大きな問題はないものの、合成されたタンパク質のミトコンドリアへの移行が想定よりも障壁であったことによると考えられる。第一に、ミトコンドリア標的化シグナルとして機能するN末端のプレ配列(マトリックスへ輸送された後にプロセシングで除去される)と目的タンパク質のマッチングが重要である可能性が高い。具体的には、プレ配列の長さとプロセシング効率の最適化が必要である。その理由としては、目的タンパク質が複数の膜貫通ドメインをもつ疎水性の高いポリペプチド鎖から成ることが考えられる。第二に、ミトコンドリアでの膜透過を促すために施した、膜貫通ドメインの疎水性低下により、ミトコンドリア内膜への組込み・複合体へのアセンブリが阻害された可能性がある。そこで、置換するアミノ酸の種類を変えてみたり、膜貫通ドメインの長さを微調整することで、タンパク質輸送チャネルでの膜透過性と内膜への組込みの双方を改善できればと期待している。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定である2年間の研究機期間を一年延長し、これまでの遅れを取り戻しながら、平成27年度も引き続き実験計画を遂行してゆく。すなわち、①N末端プレ配列の種類を検討しつつ、配列長や一次構造の改変も行う。加えて、②膜貫通ドメインの疎水性アミノ酸を置換するとともに、膜貫通ドメインの配列を短縮する。これらの改変により、疎水性の高い膜タンパク質をミトコンドリア・マトリックスへ特異的かつ効率よく標的化できるようになると考えている。また、外膜および内膜のタンパク質輸送チャネルを介した膜透過も改善されると期待している。
上記のステップがクリアされたら、③上記の遺伝子発現カセットを核ゲノムへ挿入するため、loxP配列で挟んだ薬剤耐性マーカーを持つプラスミドにサブクローニングし、染色体上の標的配列を含む挿入カセットをPCRで増幅する。④挿入カセットで目的タンパク質の変異細胞を形質転換する。薬剤耐性マーカーはCre組換え酵素を用いたCre/loxPシステムで染色体上から除去し、次の遺伝子挿入に再利用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度の実験計画の主要なステップであるタンパク質のミトコンドリア移行において、時間を要する結果となった。これは、目的タンパク質に付加したN末端プレ配列の機能が不十分だったことと、膜貫通ドメインの疎水性が想定より高かったことにより、ミトコンドリア標的化と内膜への組込みが効率良く起こらなかったためと考えられる。このため、当初に予定していた次の段階の実験計画に要する費用分が未使用となり、延長年度に繰り越しとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越し分の使用計画においては、昨年度に達成できなかった実験の費用として使用してゆく。具体的には、(1)改変細胞のミトコンドリアの構造・機能の解析:上記で得られた細胞について、ミトコンドリアの膜構造を電子顕微鏡で解析する。呼吸機能については、単離ミトコンドリアの生化学的解析により、呼吸鎖の安定性・酸素消費量を調べる。(2)改変細胞の表現型解析:野生型および改変細胞を発酵性培地で増殖させ、呼吸欠損で生じるプチコロニーの出現頻度を調べる(通常、1-5%の割合でmtDNA変異によるプチコロニーが出現する)。加えて、経時寿命(静止期の生存率)と複製寿命(母細胞の分裂回数)を調べるとともに、呼吸欠損頻度を解析し、ミトコンドリアの恒常性を野生型と改変細胞で比較する。
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