小胞体に局在するOASISファミリーは小胞体ストレスに応答して膜内切断を受け、転写因子として機能する細胞質ドメインと、細胞外に分泌される小胞体内腔ドメインに切り離される。本研究課題では、OASISファミリーのうち特にBBF2H7に着目し、分泌された小胞体内腔ドメインの解析を通して、『小胞体ストレスの細胞間情報伝達』の仕組みと生理的役割を明らかにすることを目的に研究を進めた。その結果、以下のような成果が得られた。1)小胞体内腔ドメインの生理活性解明;BBF2H7は膜内切断を受けたのち、小胞輸送システムによって細胞内から細胞外に分泌され、分泌された小胞体内腔ドメインに細胞増殖活性があることがわかった。この細胞増殖のメカニズムとして、BBF2H7小胞体内腔ドメインはPtch1およびIhhに結合し、Ptch1の下流シグナルを活性化して細胞周期関連遺伝子の発現を誘導することがわかった。2)小胞体内腔ドメインの機能制御;BBF2H7の小胞体内腔ドメインのShhおよびPtch1への結合を阻害する中和抗体の作成を試みた。その結果、BBF2H7 小胞体内腔ドメインに反応するハイブリドーマ細胞株を10クローン得た。その中で特にタイターの高かったA6-16およびA6-41クローンから精製したモノクローナル抗体を、癌細胞株U251MG細胞に添加して細胞増殖アッセイを実施した。この2種の抗体を添加したものでは、コントロール抗体を添加したものよりも有意に細胞増殖が抑制された。以上の結果から、BBF2H7小胞体内腔ドメインに対するモノクローナル抗体はヘッジホッグシグナルが活性化している固形癌の増殖を抑える働きがあり、抗体製剤としての可能性が示された。
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