研究課題
挑戦的萌芽研究
本研究は、生きたヒト培養細胞内に生体分子結合ビーズを導入し、それを種として細胞内に「人工細胞核」を創製することを目指すものである。通常、ヒト細胞では細胞分裂期に核膜の崩壊および再形成というダイナミックな膜構造変化が起こる。そこで、初年度であるH25年度には、様々な生体分子結合ビーズをHeLa細胞内に導入した後、分裂期を経た細胞を主な対象として、ビーズ周囲における核膜形成の有無を解析した。まず、直鎖状二本鎖DNAを結合させたビーズ(直径2.8 μm)を細胞に導入し、生細胞蛍光・電子相関顕微鏡法(live CLEM)および免疫染色法等によって解析したところ、DNAには、核膜によく似た膜構造(人工核膜)を形成させる能力があることが分かった。そのメカニズムを検討し、DNAにDNA結合タンパク質barrier-to-autointegration factor (BAF)が結合し、さらにBAFに核膜タンパク質emerinが結合するためであることが分かった。しかし、この人工核膜には核膜孔複合体が見られなかったことから、DNAは、少なくともHeLa細胞においては、完全な機能を持つ核膜を形成するのに不十分であることが分かった。さらに、タンパク質であるRanGTPaseおよびImportin betaを結合させたビーズを検討したところ、それぞれのタンパク質を結合したビーズ周囲に核膜孔複合体と思われる構造体を有する核膜構造が観察された。以上の結果から、生体分子結合ビーズをヒト培養細胞に導入することにより、様々な性状の核膜構造をビーズ周囲に人為的に形成させ、その過程を詳細に解析できる実験系の構築に成功したと結論した。
2: おおむね順調に進展している
生体分子結合ビーズの種類や顕微鏡法による観察の時期等の実験条件を複数検討して解析を行い、実際に生細胞内でビーズ周囲に核膜が形成される条件を見いだせたことは、当初の計画通りである。
各種生体分子を結合させたビーズの周囲に形成される核膜構造(人工核膜)の機能評価を行う。具体的には、人工核膜内外での物質輸送の選択性について、核移行シグナル配列を付与した蛍光標識タンパク質が人工核膜の内側(ビーズ表面側)に顕著に蓄積するかどうかを指標にして調べる。また、人工核膜が持つバリア機能について、どのような分子量までの蛍光標識デキストランが単純拡散によりビーズ表面にアクセスし得るかを指標にして調べる。また、これらと並行して、各実験条件での人工核膜の形成メカニズムについて、顕微鏡法等を用いた解析を行う。
すべて 2013
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