有性生殖を営むすべての生物にとって、次世代へ遺伝子を継承する受精の成否は種の保存と繁栄に重要であり、植物では農作物の収穫量に直結する問題となる。被子植物における花粉管ガイダンスは、雄性配偶体である花粉管を雌性配偶体へと的確に導く受精に重要な機構の一つとして知られている。近年、花粉管が雌性配偶体に誘引される際の誘引物質が同定され、分子レベルの解析が進められている。一方、動物の多精拒否機構が知られるように、植物でも雌性配偶体に進入する花粉管は通常1本のみである。この機構として花粉管同士の反発作用が働く可能性が考えられるが、花粉管間における相互作用については知られていない。雌性配偶体内は複雑で内部をイメージングすることは技術的難易度が高いことが理由の1つと考えられる。そこで、本研究課題では、微細加工技術を駆使してイクロ流路を作製し、ライブイメージングにより花粉管の動態を観察した。その結果、花粉管同士がかろうじてすれ違うことのできる流路幅においても、花粉管間における顕著な相互作用を示す運動は検出されなかった。次に、花粉管の誘引物質に対する反応を従来のT字路型のマイクロ流路を十字路に変更して定量したところ、誘引される花粉管は約60%に留まることが分かり、十字路のマイクロ流路は誘引物質に反応した花粉管のみを集めるのに有効なデバイスであることがわかった。今後、花粉管同士の相互作用をより詳細に調べるためには、誘引応答能を獲得した花粉管同士での相互作用を調べる実験基盤が必要であると考えられる。
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