ミサキマメイタボヤでは、個体の加齢と(出芽による)延命に連動して、ミトコンドリアの機能低下と再活性化がおきる。ミトコンドリア転写因子TFAMとミトコンドリア維持因子PHN2に的を絞り、コアプロモーター領域のヒストン修飾と遺伝子発現調節との関係を調べた。また、ヒストン修飾がミトコンドリア遺伝子COX1 の発現に及ぼす影響について調べた。 PmPHN2は、ミサキマメイタボヤの生涯を通して常に高いレベルで発現していた。PmPHN2のヒストンH3K27は高度にトリメチル化されていたが、H3K9アセチル化も同時におきていた。レチノイン酸(RA)は、ヒストンアセチル化酵素(GCN5)を介してH3K9acを誘導し、PmPHN2遺伝子発現を促進した。RAの効果は、ヒストンアセチル化阻害剤CPTH2により阻害された。RAR・RXR・MYCなども同様の挙動を示したことから、ミサキマメイタボヤではH3K27me3がデフォルトで、ヒストンアセチル化により遺伝子発現が調節されることが示された。 PmTFAMは、加齢によって発現量が低下し、出芽に伴い発現が増強する。PmPHN2と異なり、顕著なヒストンメチル化やアセチル化は検出されなかった。TC14-3は、PmTFAM・PmCOX1の発現を促進する内在性ポリペプチドである。加齢個体をTC14-3とヒストンメチル化阻害剤(GSK343)で同時処理したところ、H3K27トリメチル化、PmTFAM・PmCOX1の遺伝子発現、ミトコンドリアの呼吸活性の指標であるMitoTracker染色性が全て抑制された。これらの結果より、①ヒストンメチル化は、核遺伝子PmTFAMの発現を正に制御している、②ヒストンメチル化は、ミトコンドリアの遺伝子発現と膜電位機能に間接的に関与する、③H3K27me3修飾を受け、PmTFAMの発現を調節する上流遺伝子の存在が強く示唆された。
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