多細胞真核生物を構成するほとんどの細胞では1細胞1核の状態が保たれているが、1個の細胞中に複数の核が存在する細胞として、合胞体(シンシチウム)と雌雄配偶子が融合した直後の受精卵がある。合胞体は、植物の胚のうや胚乳、昆虫の初期胚、動物の骨格筋繊維や胚盤などの形成期に生じるが、細胞内の核が融合することはない。一方、受精卵中では、受精直後には精核と卵核の2つの核が存在するが、それらは速やかに融合し、受精卵核を形成する。このように、1個の細胞内で複数の核が存在するという点では合胞体と受精卵は共通しているが、前者では核が融合しない状態で安定しているのに対して、後者では両核の融合が速やかに進行するという明確な違いがある。本研究は、卵細胞、精細胞、体細胞などを様々な組み合わせで融合させた細胞中の核の動態を詳細に観察・解析することで、核融合を制御する機構の一端を明らかにすることを目的とした。 雌雄配偶子および体細胞を任意の組み合わせで融合させたのち、それら融合細胞内における核融合過程を解析したところ、卵細胞が精核以外の核とも核合一を進行させる能力を保持していること、および、精細胞は受精卵初期発生を正常に進行させるための特異的な機能・因子を持つことが示された。さらには、卵細胞がもつ「核合一を進行させる能力」を支える細胞内機構に関する解析を進めたところ、卵細胞中では細胞内全域に広がったメッシュ状のアクチンフィラメントが卵核方向へと断続的に移動しており、融合細胞内の精核または体細胞核は、それらの核膜とアクチンフィラメントが何らかの分子機構を介し接着することで、卵核方向へと移動することが示唆された。また、このような細胞内のアクチンメッシュワークの核方向への断続的な移動(集約)は、植物体細胞および動物の受精卵では観察されておらず、被子植物卵細胞における特有の核輸送機構であると考えられた。
|