研究課題
挑戦的萌芽研究
本研究課題は線虫C.elegansの生殖巣形成をモデルとして、神経ペプチドの一種であるFMRFamide関連ペプチドが器官の形成を制御するという新規機能を提案することを目的とした。当該年度は以下のような3つの計画に沿って研究を実施した。1. 遺伝学的スクリーニングによるflp-10(ok2624)サプレッサー変異体の単離、2. FLP-10Cペプチド結合タンパク質の同定とその機能解析、3. 既存の基底膜分子との遺伝学的相互作用解析。得られた成果を以下に示す。1. 変異アミノ酸が野生型に置換されたリバータントが単離されるのを回避するため、欠失変異体であるflp-10(ok2624)株を用いてサプレッサースクリーニングを行った。変異源処理によって多数のサプレッサー候補を単離したが、いずれもフォールスネガティブであり、未だサプレッサー株の樹立には至っていない。2. 合成したビオチン化FLP-10Cペプチドをベイトとして、プルダウンアッセイによる結合タンパク質の探索を行った。線虫抽出液からの結合タンパク質の候補をLC-MS/MSによって解析したところ、ATP synthase αサブユニットであることがわかった。ATP synthase αをコードするH28O16.1遺伝子をRNAiによってノックダウンすることで、生殖巣形成に与える影響を期待したが、幼生致死を示し生殖巣の観察が不可能であった。3. 生殖巣形成に異常を示すmig-17(k174)変異体のサプレッサーとして得られたlet-2(k193)、およびfbl-1(k201)変異体が、flp-10(tk28)変異体の表現型をサプレスするかを調べるため二重変異体を作製したが、いずれの場合にも表現型の抑制が見られなかった。したがってflp-10はmig-17とは異なる遺伝的経路で機能していることが予想された。
3: やや遅れている
研究計画調書に記載した通り、flp-10(ok2624)サプレッサー遺伝子を単離するために、変異源処理を独立に2度行いサプレッサーの単離を試みたが、未だサプレッサー株の樹立に至っていないことから、(3)と評価した。遺伝学的スクリーニングによって得られるサプレッサーがFLP-10Cペプチドの受容体である場合、恒常活性化型の機能獲得変異(おそらくは1塩基置換)を予想しているが、確率的にも容易ではないと考えている。従って、このような遺伝学的アプローチに加えて、上述の生化学的手法を用いたアプローチも並行して行うことで、受容体や結合タンパク質の同定を目指した。
プルダウン実験によって同定したH28O16.1遺伝子との機能的関連性について調べる。主にFLP-10Cペプチドの受容体として機能しているのかを検証する。ATP synthaseはミトコンドリア以外にも、神経細胞やがん細胞では細胞表面に局在することが報告されている。同様に線虫DTCの表面に局在しているかを抗体を用いた組織染色や、H28O16.1のプロモーターの下流につないだGFPの発現解析実験によって確認する。またH28O16.1のDTC移動における機能を調べるために、組織特異的ノックダウン法によってDTC移動に与える影響も調べる。このような検証からH28O16.1がFLP-10Cペプチドの受容体として機能していないという結論に至ることも想定されるため、並行して遺伝学的スクリーニングによるサプレッサーの同定は続ける。
本年度中に変異体株を樹立し、次世代シーケンス解析による変異遺伝子の同定をする予定であったが、変異体株が未樹立のため次年度使用額が生じた。次年度中に得られる変異体株の次世代シーケンス解析に使用する計画である。
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Genetics
巻: 196(2) ページ: 471-479
10.1534/genetics.113.157685. Epub 2013 Dec 6.