研究実績の概要 |
FMRFamideおよびFaRPs(FMRFamide-related peptide)はC末端側にPhe-Met-Arg-Phe-NH2(アミド)構造を持ち、心臓調節、筋調節、痛覚、学習、接触など、多岐にわたる神経活動に関わっている神経ペプチドである。我々は線虫C.elegansを用いた遺伝学的スクリーニングによって、生殖巣形成に異常を示す新規変異体、flp-10(tk28)/FaRP変異体の単離に成功した。FLP-10ペプチドは他種のFaRPと同様、前駆体として産生されたのち種々の修飾酵素によって修飾、切断され、3つのペプチド(A,B,C)になる。そのうちRFアミドを持つBペプチドがFLPペプチドとして機能すると考えられている。そこでどのペプチドが生殖巣形成に必要かを調べたところ、驚いたことにCペプチドの発現によってのみflp-10(tk28)変異体の生殖巣形成異常が回復した。これは本来機能を持たないと考えられてきたCペプチドが器官の形成において機能しているということを意味する。本研究課題では生化学的手法を用いたCペプチド結合タンパク質のスクリーニングを行い、F1-F0 ATP合成酵素のαサブユニットの同定に成功した。このαサブユニットの過剰発現は生殖巣形成の異常を引き起こしたが、Cペプチドの共発現によってその異常は回復した。このことからFLP-10Cが生殖巣に存在するF1-F0ATP合成酵素のαサブユニットに対してネガティブに作用することが、正常な生殖巣形成において必須であると考えられた。さらにはこのようなFLP-10Cによるネガティブな作用は、生殖巣細胞表面上でのみ起こるということも明らかにした。このような結果から、F1-F0 ATP合成酵素は器官の表面においてCペプチドの受容体として機能することで器官の形成を制御していることが考えられた。本研究課題ではプロセッシング後ペプチドが関与する器官形成の新規モデルを提案した。
|