研究概要 |
大脳新皮質の「層構造」は全てのほ乳類に認められながらも、ほ乳類以外の相同領域には存在しない新奇な構造である。そのため、哺乳類の進化に伴って突如現れた、進化的に新しい脳構造であると考えられてきた。しかし、これまでの我々の研究で、哺乳類大脳新皮質の上層と下層に存在する神経細胞のサブタイプが、ニワトリの脳にも存在することが明らかになってきた。本研究では、より原始的な構造を持つとされるカメの新皮質相同領域を用いて、哺乳類大脳新皮質層特異的マーカー遺伝子の発現を調べ、ニワトリ脳における発現パターンと比較した。具体的には、第6層マーカーとしてTbr1、第5層マーカーとしてEr81, Fezf2, Ctip2, 第4層マーカーRorb,第2/3層マーカーFoxp1, Mef2c, Satb2について発現解析を行った。その結果、カメの新皮質相同領域においても、上層と下層のマーカー遺伝子を発現する神経細胞サブタイプが存在することが明らかとなった。それらの分布パターンは、ニワトリと非常によく似ており、下層細胞は内側に、上層細胞は外側に局在していた。さらに、神経発生の時空間的なパターンもニワトリとカメとでよく類似しており、この神経発生のパターンが、哺乳類の層状の神経細胞分布との違いを生み出すと考えられた。以上の結果は、我々が提唱する大脳新皮質「層構造」を生み出す機構の古い起源を支持する。さらに本研究により、哺乳類の進化の過程で、新皮質の神経発生の時空間的パターンに変化が生じた可能性が示唆された。
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