研究実績の概要 |
細胞間コミュニケーションは、細胞の運命制御や環境応答など個体を統制する上で重要であり、植物では原形質連絡がその役割を担っている。近年、原形質連絡を介した情報のやり取りが発生段階あるいは周囲の環境変化に応じて動的に変化していることがわかってきた。しかし、その制御に関わる因子については、まだ断片的にしかわかっていない。 そこで、申請者らは、ヒメツリガネゴケの原糸体が細胞間コミュニケーションの研究に優れていることに着目し、光変換型蛍光タンパク質Dendra2を用い、細胞間コミュニケーションを定量解析する方法を開発し、研究を進めた。その結果、植物ホルモンであるアブシジン酸( ABA)依存的に高分子の細胞間移動が抑制されることを見出した。次に、このABA依存的な細胞間の高分子移動の抑制にどのような制御因子が関わっているのかを明らかにするため、ABI1, ABI3, SnRK2のそれぞれに注目し、これらの遺伝子破壊株や誘導的遺伝子過剰発現株を作成し、Dendra2の移動度の定量解析を行った。 その結果、ABI3, SnRK2のそれぞれがABA依存的な高分子輸送の抑制に重要な役割を果たしていることを見出した。両者のうち、SnRK2がこの抑制制御により重要であるらしいことも明らかにできた。さらに、ABI3, SnRK2の下流で原形質連絡の制御に関わる因子を同定するために、カルシウムシグナル系や活性酸素シグナル系に注目し、これらシグナル系の阻害剤などを用い、その効果を調査した。その結果、いずれの阻害剤においてもDendra2の輸送制御に関わることを示すデータを得ることはできなかった。しかしながら他の研究グループの報告より、活性酸素の関与はまだ十分に考えられるため、活性酸素の産生や消去に関わる酵素に焦点を絞り、高分子輸送のとの関わりを調査する実験系を立ち上げた。
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