研究課題
挑戦的萌芽研究
イノシトールリン脂質(Phosphatidylinositol phosphate, PIP)は、カルシウムと並んで細胞内シグナリングの主要な要素である。PIP は分子種が多く、それぞれが異なる役割を担っている。特定のPIP 分子種に結合する細胞膜タンパク質PCaP を見出し、PCaP がPIP を結合すること、その結合がカルモジュリン/Ca 複合体の存在で解離する特性をもつことを明らかにしてきた。本研究では、これらの特性を明らかにするために、次の実験研究を進めた。(1)PCaP1およびN端の23残基を欠落したPCaP1分子をリコンビナントタンパク質として合成・精製し、タンパク質化学的構造解析をおこなった。その結果、N端領域はαヘリックス構造をとる可能性が高いこと、中央およびC端領域はランダムコイルあるいは天然変性構造をとることを明らかにした。(2)精製標品を用いてリガンド結合能を解析したところ、PCaP1はカルシウムのみでなく、マグネシウムイオンも結合することを明らかにした。(3)根毛に特異的に発現するPCaP2が、根毛の正常な先端成長に不可欠であることを証明し論文発表した。(4)PCaP2の改変型分子を発現すると根毛を形成しない株が得られること、そしてその無根毛株をもちいて、根毛の生理機能等を解析した。当研究室で見出したPCaP1およびPCaP2分子の機能解明として、分子特性と改変分子の発現による植物体の表現型の解析を進めることができた。次年度も引続き解析を進め、本年度の成果の論文発表にも努める。
1: 当初の計画以上に進展している
当初は、タンパク質化学的解析が必ずしも順調ではなく十分な成果が得られる見通しが立てられなかったが、測定機器を変えて実験条件を検討することで改善が進み、データを得ることができた。また、以前から進めてきたPCaP2の機能解析から根毛形成と発達に不可欠であることを証明でき、論文として発表することができた。自ら発見した分子を、機能も含めて分子レベルで明らかにする計画の中で、本年度は、予定以上の成果が得られたと判断する。
今後もさらに研究を展開し、組織普遍的なPCaP1および根毛特異的なPCaP2の分子特性と生理機能のモデルを提案したい。特に、PCaP2改変分子の発現による無根毛株の特性解明、PCaP1分子のタンパク質特性の解明を進めて論文発表に結びつけたい。可能であれば、PCaP1の機能欠失株の表現型を明らかにし、生理機能の解明に資する知見を得る。
本年度は、PCaP1のタンパク質化学的解析ならびにPCaP2の表現型解析を中心とした研究を進めた。精製したタンパク質をCDおよびITC装置を用いるタンパク質化学分析であったため消耗品費等の使用金額を抑えることができた。また植物株の表現型解析にも特殊な試薬等を使用することがなかったため、器具試薬費用を抑えることができた。新年度では新たな変異株の作製と解析に支出する。また、表現型解析について他大学の専門家との共同研究を計画しており、旅費等の支出も必要である。また、実験推進のための人件費、論文掲載料にも充てる予定である。
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Plant Cell
巻: 25 ページ: 2202-2216
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