研究実績の概要 |
植物は篩管を介してmRNAやタンパク質などの高分子を長距離輸送し、それら高分子のもつ働きによって、離れた器官間で情報伝達を行い、周囲の環境に適応した個体発生を果たしている可能性がある。本研究では、この仮説にアプローチするため、長距離輸送されるmRNAの網羅同定を行い、輸送経路の可視化システムを構築した。 まず、植物の長距離移行性高分子mRNAの網羅的同定のための実験系を確立した。同定には、モデル植物シロイヌナズナとタバコの異種間接木法と高速シークエンサーを利用し、138分子種の長距離移行性のmRNAを同定した。70分子種については、RT-PCR法により再現性を検討した。また、qPCR法およびデジタルPCR法により、微量標的の定量化も試みた。一部の移動性mRNAについては、遺伝的リソースを用いて接木実験を行い、その意義についても考察した。以上の結果を、Plant Cell Physiology誌に公表した (Notaguchi et al., 2015)。タンパク質の同定には、ウリ科植物の異種間接木法を利用し、質量分析機を用いて篩管液を対象に解析を行い、これまでに篩管中に存在することが示唆されている複数のタンパク質を同定することに成功した。いずれの場合も、接木法を適用したことで、長距離移行性高分子についてはじめて疑いない情報を網羅的に得ることができた。得られた結果は、植物における全身性の情報伝達に関する今後の研究の基盤情報となる。輸送経路の可視化システムについても構築が終了し、既に植物に導入済みである。これらのシステムは今後、候補シグナル高分子にフォーカスした研究へ適用してゆく予定である。
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