これまで、植物の個々の細胞が独自に時間を測っており、どの組織の体内時計も同じ機能を持っていると漠然と考えられていた。本研究で私たちは、各組織の体内時計がどのように環境刺激を処理しているか明らかにするため、組織ごとに体内時計機能を阻害した系統を作出した。体内時計はほぼ全ての細胞・組織で見られるため、変異体の解析や単純な過剰発現体の解析では、観察された表現型がどの組織の体内時計の機能に由来しているのかを推定するのは困難であった。今回、組織特異的な発現を持つプロモーターを用いて組織特異的に時計遺伝子を過剰に発現させることで、特定の組織における体内時計の機能を阻害した形質転換植物を多数作出した。これにより、観察される表現型と組織の機能の関係がはっきりとし、初めて定量的に各組織の体内時計の機能を解析することが可能になった。 この系統を用いて、花を誘導する日長条件および花を誘導しない日長条件での、花芽形成速度を測定したところ、維管束の特に篩部伴細胞で時計機能を阻害した系統のみが日長依存的な遅咲きを示すことが明らかとなった。次に、他の生理応答でもこうした維管束・篩部伴細胞の時計が同様に重要であるかを調べるために、代表的な体内時計制御の生理応答である胚軸伸長制御について調べた。維管束・篩部伴細胞の時計は全く表現型が見られない一方で、表皮の時計機能を阻害した系統では顕著な胚軸伸長が観察された。また、表皮の時計は胚軸以外にも子葉や葉柄の伸展・伸長に関わっていたことから、表皮の時計は細胞伸長制御全般を司っていることが示され、花芽形成の場合と異なり、表皮の時計は常温刺激を処理し、細胞伸長制御に関わっていることが明らかとなった。これらの成果はNatureおよびNature Plants誌に発表した。
|