研究課題
挑戦的萌芽研究
マイクロボディ(ペルオキシゾーム)は真核細胞内にある動植物共通の重要なオルガネラであるが、その分裂様式は全く知られていなかった。そこでマイクロボディを1個しか含まず、その分裂を高度に同調化出来る原始紅藻シゾンを使い、次のように純度の高い分裂期マイクロボディの単離を行い、その分裂装置についてゲノム科学的に検証を行った。1.シゾンの高度同調培養系:光の明暗を利用したこの系では約85~90%の同調率を得る事が出来、細胞は葉緑体、ミトコンドリア、マイクロボディの順に分裂した。マイクロボディは小さく、分裂過程のほとんどの時間ミトコンドリアに巻き付いているので、当初はこの性質を利用して分裂期マイクロボディの単離を試みたが困難であった。2.マイクロボディの高度分裂同調系の開発:マイクロボディはミトコンドリア分裂後に分裂するが、その分裂速度が速いため、分裂中のマイクロボディを大量に集める事は難しい。そこで、マイクロボディの分裂後の分配にミトコンドリアを通して微小管が関与していることに着目し、微小管破壊剤(カンプトテシリン)処理を行った。この処理により、核分裂の停止とともに、マイクロボディの分裂速度が遅くなり、分裂期マイクロボディの大量回収が容易になった。3.分裂期マイクロボディの単離とタンパク質の同定:分裂期マイクロボディを含む細胞をフレンチプレスを使って破砕し、密度勾配遠心で分裂期マイクロボディを含む画分を得た。この画分を用いて分裂中マイクロボディを構成する全タンパク質の同定をMSにより行ない、約6種の候補タンパク質を得た。特に分裂に関わる有力な候補としてダイナミン1(CmDnm1)を同定し、これを足がかりに研究を進め、抗体反応や電子顕微鏡観察等を行って、マイクロボディの分裂装置発見へと大きく前進した。
1: 当初の計画以上に進展している
原生生物から高等動植物に至る真核生物を構成する真核細胞は、基本的には3種の複膜系オルガネラ(細胞核、ミトコンドリア、植物であれば色素体)と4種の単膜系オルガネラ[小胞体(ER)、ゴルジ体、リソソーム、マイクロボディ(ペルオキシソーム)]の計7種のオルガネラから構成されている。これまで細胞分裂の研究は細胞核と細胞質の分裂に注目して進められてきた。しかし申請者らは細胞分裂は上記7種のオルガネラの分裂増殖を含めて理解するべきとの概念で研究を進めている。そしてこれまで複膜系のミトコンドリア(1982~)と色素体が独自の分裂装置(1976~)を使って分裂増殖をしていることを発見し、それらの分裂機構を解明してきた。本研究では細胞増殖の高度同調化とカンプトテシリン処理により、マイクロボディの分裂の同調化に成功し、単離ができたことにより予想以上に研究が進展した。その結果マイクロボディが分裂装置を使って分裂増殖をしているという、世界ではじめての画期的な発見の基盤を作ることができた。これは単膜系のオルガネラの分裂機構の解明であり、当初の計画を遥かに越えた生物学の基本となる知見になると期待される。
既に現段階では、この研究を一歩進めて、分裂中マイクロボディの単離、更にそれからマイクロボディの分裂装置の単離、そしてその構成タンパク質をはじめとした分子の同定へと進んでいる。分裂装置に含まれるタンパク質は多数検出されたが、そのうちの一つはダイナミン1(CmDnm1)であった。これまでの研究でミトコンドリア分裂にもダイナミン1が関与することが知られており、このタンパク質の両オルガネラにおける共用性の意義と共に、その他の生物での一般性を解明する。また他のタンパク質の働きについても解析を進め、最終的にはこれらオルガネラの進化的意義を考察したい。マイクロボディの異常は重篤な病気の原因となることも知られており、医療への応用も期待される。
25年度末には分裂中マイクロボディ画分タンパク質の遺伝子同定のため、マイクロアレイ解析を進める予定であった。しかし得られた成果が大きく、それを加味して実験を26年度に行うことになり、次年度使用額が生じた。次年度使用額と26年度助成金とを合わせて、遺伝子解析やマイクロアレイ解析を行って、1)マイクロボディタンパク質とその遺伝子の同定、2)単膜系及び複膜系分裂マシンの構成成分との比較を行い、細胞内の単複膜系オルガネラの分裂機構の解析を目指す。また得られた成果を学会、論文として発表する。
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