研究課題/領域番号 |
25650113
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
深田 吉孝 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80165258)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 視覚 / 光受容 / 視細胞 / マイクロアレイ解析 / 転写制御 / 桿体 / 錐体 / ゼブラフィッシュ |
研究実績の概要 |
脊椎動物の視細胞には桿体と錐体の二種類が存在する。桿体の分化・成熟機構については哺乳類(主にマウス)において解析が進んでいるが、夜行性マウスにおいて提唱された機構が脊椎動物において広く保存されているかは不明である。そこで本研究ではマウスにおいて桿体の成熟に関わることが知られている転写因子nr2e3に着目し、TALENを用いて変異ゼブラフィッシュ系統を作製した。その結果、nr2e3変異体では桿体が成熟せずに細胞死を起こすことを見出した。また、ゼブラフィッシュの松果体にもnr2e3が発現するが、nr2e3変異体では松果体においても桿体型の光シグナリング遺伝子の発現が消失することが分かった。nr2e3は幅広い脊椎動物種において桿体の成熟に必要であり、また、松果体と網膜という異なる組織の光受容細胞において桿体型の光シグナリング遺伝子が適切に発現するために不可欠な共通因子であると考えられた。 一方、桿体に特徴的な細胞形態を生み出す分子機構に迫るために、桿体特異的に発現する遺伝子に着目している。私共はこれまで、マイクロアレイ解析により錐体と比較して桿体に高発現する遺伝子を同定している。本研究では、桿体を欠損したnr2e3変異体を用いてRNA-seq解析を行うことにより、野生型と比較してnr2e3変異体の眼球において有意に発現低下する遺伝子、つまり桿体特異的に発現する遺伝子を絞り込んだ。さらにマイクロアレイ解析によって同定された桿体に高発現する遺伝子との共通部分を抽出し、約60個の桿体特異的遺伝子を得た。これらの中で桿体においてまだ機能が解析されていない遺伝子について視細胞変性マウスの網膜を用いた遺伝子発現解析を行い、視細胞変性マウスにおいて顕著に発現が低下する遺伝子、つまりマウス網膜においても視細胞に特に強く発現する遺伝子を同定した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゼブラフィッシュnr2e3変異体の解析から、nr2e3が網膜と松果体という異なる二つの光受容組織において桿体型の光シグナリング遺伝子の発現に関わることを見出した。並行して、nr2e3ノックアウトゼブラフィッシュは桿体のみを失うことを見出したため、nr2e3変異体を用いたRNA-seq解析により桿体特異的に発現する遺伝子を絞り込むことができた。桿体の細胞形態形成に関わる候補遺伝子の機能解析はやや遅れているが、光受容細胞における遺伝子発現の調節機構について新たな知見を得ることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、視細胞の形態形成における候補遺伝子の機能解析を進める。候補遺伝子がかなり少数に絞られたため、これらの遺伝子について当初は計画していなかったCRISPR/Casシステムを用いたノックアウトマウスの作製も視野に入れる。並行して、前年度までに樹立した全ての光受容細胞タイプに共通して高発現する遺伝子の変異ゼブラフィッシュ系統の解析を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度はすでに解析済のマイクロアレイ結果をもとに解析対象とする遺伝子を決定し、電気穿孔法によるマウス網膜への遺伝子導入実験に着手した。このような実験と並行して本研究を遂行する過程で、研究代表者はnr2e3遺伝子欠損ゼブラフィッシュが桿体のみを失うことを見出した。そこで、まずこの系統を用いたRNA-seq解析を行い、桿体特異的な遺伝子を絞り込むべく実験計画を変更した。その結果、実際に候補遺伝子を効率的に絞り込むことができたが、マウスへの遺伝子導入実験が当初の計画よりも遅延したため、未使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
遅延している電気穿孔法によるマウス網膜への遺伝子導入実験を行うため、マウスの購入経費やプラスミドコンストラクトの作製に必要となる消耗品の購入に使用する。
|