脊椎動物の視細胞には桿体と錐体の二種類が存在し、錐体は発現する光受容分子であるオプシンの種類によってさらに四種類のサブタイプに分類される。なかでも真骨魚類や霊長類においては、遺伝子重複により赤オプシンが複数存在することが知られている。これら倍加した赤オプシン遺伝子はそれぞれ異なった光波長感受性を備え、赤~緑の色弁別能を向上させている。倍加した錐体オプシンが別々の視細胞に発現することは高い色弁別能のために重要であるが、その制御メカニズムは未知である。私共はこれまでに、sixファミリーに属する転写因子six7が緑オプシンの発現制御に必須であることを見出した。本年度さらに成魚における遺伝子発現解析を行ったところ、six7変異体において2種類存在する赤オプシン遺伝子のうち一方(lws1)の発現が上昇し、もう一方(lws2)の発現が消失することを見出した。six7は倍加した赤オプシン遺伝子の発現制御にも重要な因子であると考えられる。今後six7の作用機序に迫り、倍加した錐体オプシン遺伝子の発現制御メカニズムの解明が期待できる。 一方、視細胞の形態形成機構に迫るために、桿体に特異的に発現する遺伝子の絞り込みを行った。桿体を欠損したnr2e3変異体を用いてRNA-seq解析を行い、桿体特異的に発現する遺伝子を絞り込んだ。nr2e3も含め、視細胞の分化・成熟に必須な転写因子や光シグナリング分子の遺伝子発現量は日内変動する。本年度、桿体特異的に発現する候補遺伝子の日内変動を調べたところ、細胞小器官の輸送関連因子の一部に明瞭な日内変動が存在することが分かり、視細胞の機能に対する重要性が示唆された。さらにCRISPR/Cas9システムを用いてこの候補遺伝子への変異導入に成功した。今後、この遺伝子の機能欠損個体の解析を進めることにより、視細胞のユニークな形態形成機構に迫ることができると考えている。
|