研究課題
挑戦的萌芽研究
食経験の違いよって生じる味覚、および摂食行動の変化が次世代にまで伝わるかをショウジョウバエを用いて行動生理レベルで明らかにする。高脂肪食のマウスの雄から生まれた次世代では、インシュリンやグルコース代謝に関わる遺伝子の発現レベルが変化していたという報告など食習慣やストレスが何らかの様式で遺伝する可能性が最近議論されている。しかし、食習慣の次世代への影響を実際に行動生理レベルで明確に証明した報告はない。本研究は、ショウジョウバエの野生集団に由来する遺伝的背景が異なる複数の系統を用いて、種々の飼育栄養条件が次世代のハエの味細胞の応答や摂食行動にどのような影響を与えるかを継代的に調べ食習慣が次世代に及ぼす行動変化を解明する。様々な遺伝的背景をもつDGRP の38系統を、糖、タンパク質の含量を数段階にコントロールした培地で生育させ、毎代のハエの糖、アミノ酸に対する摂食行動を調べる。さらに、幼虫の時は同じ培地で生育させ、羽化後に異なる栄養状態の培地で飼育したハエについても毎代のハエの糖、アミノ酸に対する摂食行動を調べる。野生集団の異なる系統の中で、行動変化が顕著に見られる系統を選んで、その系統について味覚感覚子の味細胞の応答を電気生理学的に調べるなど集中的に解析を行う。野生集団についてすでに得られているゲノム情報を解析し、味覚と摂食行動の遺伝に関わる遺伝子群を同定すると共に、体内のグルコース、アミノ酸などの定量を行うことにより体内の化学的環境の変化も解析する。
2: おおむね順調に進展している
野生集団由来の38系統について、味覚感度、アミノ酸欠乏によるアミノ酸嗜好性の上昇についての行動解析を完了し、どの系統を用いて本研究課題を行うかを決めることができた。さらに、羽化後のハエを高濃度と低濃度の糖培地において、食環境が摂食行動や味覚にどのような変化をもたらすのかを調べた。その結果、高濃度の糖培地においたハエは、グルコースの摂食率が低くなることがわかった。この原因を解明するために、体内の脂肪の蓄積量の変化、体液の糖レベルの変化、味覚感覚子の味覚感度の変化に着目し実験を行ない、高濃度の糖培地においたハエは体内の脂肪の蓄積が増え、絶食耐性が高まっていることがわかった。また、卵からグルコースなしの培地で育つと、グルコースの摂食率が高くなる傾向やグルコースに対する味覚感度が高まる結果が得られ、飼育培地の糖濃度によって摂食行動や味覚が変化する可能性が示された。
これまで用いていたコーンミール、イーストなどを混合した培地では、培地の特定成分の濃度を変化させたり、特定の栄養分を除くことができない。そこで、多数の化学物質を用いた完全合成培地を今年度から用いることとした。これによって、初年度に確認された現象を確かめる計画である。
完全合成培地に用いる化学試薬の手配が遅れたため。完全合成培地に用いる化学試薬の購入に用いる。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件)
PlosOne
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