ヒトでは過食によって引き起こされる糖尿病、肥満などの病気が先進国で深刻な問題になっている。食行動に影響を与える様々な環境あるいは遺伝的な要因を研究することが重要である。本研究では、食習慣によって摂食行動や味覚感度がどのように変化するかをモデル生物であるキイロショウジョウバエを用いて調べた。羽化後のハエに高濃度、低濃度の糖を6日間与えた後に、低濃度の糖の摂食率を調べたところ、高濃度の糖を与えたハエでは摂食率が低下していた。両者で、味細胞の糖に対する感度には差がなかった。体内のヘモリンフ中の糖濃度、脂質量を定量比較したところ、高濃度の糖を与えたハエでは脂質量が増加していた。しかし、その次世代のハエでは、糖感度や摂食率の変化は認められなかった。一方、幼虫が成育する培地の糖濃度の違いによって、成虫の糖に対する味覚感度が変化するという初歩データが得られた。このような食習慣による影響は、系統の遺伝的背景に依存する可能性がある。そこで、野生集団に由来する多数の近交系統について、アミノ酸の欠乏時にアミノ酸に対する嗜好がどれだけ高まるかを調べた結果、系統間仁栄養要求性に多様な遺伝的変異があることがわかり、今後はこれらの系統を用いて研究を進めたい。
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