研究課題/領域番号 |
25650116
|
研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
坂井 貴臣 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (50322730)
|
研究分担者 |
上野 耕平 公益財団法人東京都医学総合研究所, その他部局等, 研究員 (40332556)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 長期記憶 / 睡眠 / period / LNd |
研究実績の概要 |
「睡眠による記憶固定化」は学習後の睡眠によって長期間持続する記憶として定着する現象だが,そのメカニズムは不明である。本研究は,睡眠による記憶固定化のメカニズム解明に向けて,ショウジョウバエ(以下,ハエ)を用いた新規アプローチの確立を目指した。時計遺伝子period (per) は概日リズム形成に必須であるが,長期記憶形成にも必須である。ハエ成虫脳の一部でGAL4が発現する系統とUAS-perRNAiのF1個体ではGAL4発現細胞でperの発現が抑制される。長期記憶形成が阻害されるGAL4系統をスクリーニングし,4つのGAL4系統を単離した。これらの系統では,いずれもdorsal latera neurons (LNd)というPerが発現する6個の細胞集団の中の1から2個のニューロンでGAL4が発現していた。6個のLNdニューロンの内,3つのニューロンではNeuropeptide F (NPF)という神経ペプチドが発現している。そこで,NPF抗体を用いた免疫染色を行ったところ,GAL4-positiveなLNdニューロンではNPFが発現していないことが明らかになった。また,NPF-GAL4を用いてPerの発現抑制を行っても長期記憶が正常に形成された。これらの結果から,LNdニューロンのうち,Per-positiveかつ NPF-negativeなニューロンが長期記憶形成に必須であることが明らかになった。LNdニューロン特異的なPer発現抑制が睡眠におよぼす影響について,現在解析中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者が同定したGAL4系統の内,OK348という系統は1個のLNdニューロンと4個のLNvニューロンでGAL4が発現していた。PerはLNvでも発現していることから,長期記憶形成に必須なニューロンがLNvなのか,LNdなのかを直接的に証明することができなかった。そこで,LNd特異的かつLNvsでは発現しないGAL4系統の探索を行った。Janelia Farm のGAL4系統の中から,2個のLNdニューロンでGAL4が発現するものの,LNvではGAL4の発現が見られない系統を同定し,Janelia-GAL4-1と命名した。Janelia-GAL4-1を用いてperの発現抑制を行った結果,長期記憶が形成されなかった。よって,LNdニューロンが長期記憶形成に関与していると考えられる。 従来の遺伝子発現システムでは,数十から数百個の神経細胞をターゲットにして目的遺伝子を発現させることしかできない。OK348系統とJanelia-GAL4-1で確認されたLNdは同じ細胞を含んでいるのだろうか?また,同じニューロンであれば,その細胞のみでPerの発現を抑制した時に長期記憶や睡眠に影響が見られるのだろうか?これらの疑問を解明するためには,新たな遺伝子発現システムを導入する必要がある。そこで,ショウジョウバエの2つの遺伝子発現システム(GAL4/UASおよびLexA/LexAop)と組換え酵素Flipase(FLP)を用いたフリップアウト法(FLP/FRT)を併用したシステムを利用することにした。本年度は2種類のFLP(FLPeおよびFLPL)をLexA/LexAopシステムにより発現させ,どちらのFLPがフリップアウトに適しているか検討した。FLPeはわずかなリークでもフリップアウトが生じてしまうのでFLPLの方が適していることを現在までに確認した。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から,LNdで発現しLNvで発現しないGAL4系統(Janelia GAL4)を利用できるようになった。Janelia-GAL4-1と同じgenomic fragmentを用いたJanelia LexA系統が利用可能である。Janelia-GAL4-1と同様にJanelia LexAではLNdでLexAが発現していることを確認し,新たな遺伝子発現システム(GAL4/UAS,LexA/LexAop,FLP/FRT )によりLNd特異的なPer発現抑制実験に利用する計画である。これにより長期記憶と睡眠の両方に影響が見られるかどうかを検証する。また,この遺伝子発現システムを利用することにより,LNd特異的にsyt.GFPを発現させてLNdの投射先を同定する。投射先としては,記憶や睡眠制御に関与するキノコ体や中心体が想定されるため,まず,これら2か所の脳領域への投射が確認されるかどうかを明らかにする。さらに,Perの分子機能を推定するため,Perのprotein-protein interaction domainとして知られるPASドメインを欠失したトランスジーン(per⊿PAS)をLNd特異的に発現させて長期記憶や睡眠においてドミナントネガティブな効果が見られるか検証する。ドミナントネガティブ効果が見られた場合は,Perが他のタンパク質と2量体を形成してLNdの神経機能を制御している可能性が考えられる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
睡眠による記憶固定化メカニズムを理解する上で,LNdの重要性を直接的に証明するために,新たな遺伝子発現システム(GAL4/UAS,LexA/LexAop,FLP/FRT)の導入を行った。その結果,睡眠解析のための研究費の利用頻度が低下した。
|
次年度使用額の使用計画 |
2014年度に着手した新たな遺伝子発現システムに必要な形質転換バエ作製に必要な分子生物学実験の研究費と,睡眠解析のための研究費として利用する。分子生物学実験としては,主にクローニング関連の試薬・薬品に使用する。また,睡眠測定の実験効率を上げるため,行動測定装置(50万円以下)を1台導入する予定である。
|