本研究は、「昆虫のおける機械感覚器から湿度感覚器への進化過程」を調べることを目的としている。 2015年度には、行動実験によって湿度嗜好性と湿度と生存期間の関係、および、電気生理学的実験によって原始的な昆虫であるマダラシミの湿度受容について触角電図法(EAG法)を用いて調べた。 マダラシミを20%r.h.~90%r.h.に湿度調整した個別の飼育ケースに入れ、飲み水は与えずに生存期間を調べところ、20%r.h.の調湿した場合では雌雄ともに約3週間生存し、90%r.h.に調湿した場合には約5週間生存した。これはマダラシミはもともと飲水せず大気中の水分を肛門から吸収して水分を得ているために、飼育環境の相対湿度が一定以上であれば、水分を大気中から吸収するために長期に渡って生存できることが明らかになった。マダラシミを湿度勾配観察箱に入れて湿度嗜好性を調べたところ、雌雄ともに絶水期間が短いほど湿度の低い領域での滞在率が高く、絶水期間が長くなると高湿・中湿領域での滞在率が高くなったが、絶水した個体でも高湿領域に1日程度滞在すると一部の個体は中湿域を選ぶようになった。この結果もマダラシミが大気中から水分を吸収するためにこのような行動をすると推定された。 触角には構造的な特徴から湿度感覚子と推定される感覚子があるため、EAG法でその応答特性を調べた。その結果、相対湿度を0%r.h.に順応させた後に湿度を20%r.h.刻みで刺激強度を上げるとその応答もほぼ直線的に強くなり、100%r.h.に順応させた後に湿度を20%r.h.刻みで刺激強度を下げるとその応答もほぼ直線的に強くなった。この関係は有翅目昆虫の湿度応答と同じであり、湿度感覚器は、原始的な昆虫でも既に有翅目昆虫と同じ機能を持つように進化していることを示している。
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