昼行性のヒトや動物おいて視覚情報は生存に必須の重要な感覚情報である。しかしながら、視覚情報がどのようにして脳内で処理され、それが動物行動の選択につながるのかに関してはあまり理解が進んでいない。そこで本研究では脊椎動物モデルであるゼブラフィッシュの摂食行動を対象とし、外界の物体がどのように視覚的に認知され捕獲行動へ至るのか、その細胞レベルでのメカニズムを明らかにすることを目的とした。ゼブラフィッシュの視覚中枢は中脳視蓋であり、視蓋表層部は網膜からの入力を受ける。視蓋深部は運動系に連絡することから、視蓋の内部で感覚情報の処理から運動出力に至るまでの計算がなされていると予想される。また終脳や間脳、後脳なども認知過程を調節する可能性がある。そこで捕獲行動に関与する神経回路を全脳に渡って探索・同定するアプローチをとった。具体的には、Gal4-UASシステムを用いて、脳部域特異的にGal4転写因子を発現する細胞でUAS:神経毒を発現させ、特定の神経機能を阻害したときの捕獲行動に対する影響を評価した。その結果、視床下部下葉の神経活動が捕獲行動に必要であることを見出した。また、視床下部下葉にタンパク質性カルシウム指示薬GCaMPを導入して捕獲時における神経活動をカルシウムイメージングの手法を用いて測定したところ、獲物(餌となるゾウリムシ)が稚魚に近づいたときにか顕著な活動性を示すことを明らかにした。さらに、視床下部下葉に入力する経路として、前視蓋部からの神経軸索の投射が存在することを見出した。これらの実験結果から、前視蓋-視床下部下葉という神経回路が餌の検出から摂食行動への動機付けを担う神経回路である可能性を提唱した。
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