27年度までに、タマミジンコ飼育実験において、世代間の産仔能力の変化について検討し、以下の結果を得た。すなわち単為生殖においては10世代を隔てても産仔能力に有意な変化がないのに対し、休眠卵を作成する有性生殖では、単一の休眠卵から由来した単為生殖個体間に産仔能力の差はないものの、同一クローン由来の同世代の休眠卵由来個体間で顕著な産仔能力の差が認められた。さらに、多産クローンと少産クローンについてそれぞれ有性生殖を行わせ、休眠卵を作らせたが、多産クローン由来休眠卵孵化個体も少産クローン由来休眠卵孵化個体も同様の産仔数の多様性が見られ、両者の平均値に差はなかった。このことは、単為生殖では多型性は出現せず、有性生殖では顕著な多型性が作られること、およびそれらの多型性はゲノムの多型性を反映したものでないことを示唆する。後者は、これが正しいとすれば多細胞生物では類を見ない現象であり、課題提案時に想定していなかった発見である。 計画を変更し、28年度はエピジェネティクス解析を企図したが、過去の研究からヒストン修飾による多型性の創出の可能性は低いと考え、DNAメチル化の解析を実施した。予備実験により1個の休眠卵より500ng程度のDNA抽出に成功していたため、休眠卵より抽出したゲノムDNAをメチル化感受性制限酵素で切断し、断片の出現パターンをDNAフラグメントアナライザーで比較解析する計画を立案した。 休眠卵は微小であり、2個が1つの殻にくるまれているため顕微鏡下での解剖が必要となる。抽出できるDNA量が安定しないため、解剖とDNA抽出の習熟を図ったが、抽出DNA量の不安定さから、作業中に餌や細菌のDNAが混入しやすいことが判明した。試行錯誤の結果、休眠卵を十分に乾燥させ、70%エタノール中で解剖することで混入を防止できたが、DNAフラグメント解析は行えなかった。
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