研究課題/領域番号 |
25650124
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
赤木 純一 国立医薬品食品衛生研究所, 病理部, 研究員 (60512556)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 遺伝毒性 / 損傷乗り越え複製 / DNA損傷トレランス / Polη / Polι / Polκ |
研究概要 |
本研究は損傷 DNA の複製に関わる DNA ポリメラーゼである Polη、Polι、Polκを三重に欠損したマウス胚性線維芽細胞(TKO 細胞)を用いた、遺伝毒性の簡便な評価系の確立を目的としている。 平成25年度は既知の遺伝毒性物質であり、かつ代謝活性化を必要としないメタンスルホン酸メチル(MMS)を用いて、野生型(wt)細胞と TKO 細胞の感受性を MTS アッセイにより測定する条件検討を実施し、プレートの種類、1 wellあたりの細胞数、培養期間等について検討し、MMS 処置により TKO 細胞が wt 細胞と比べて高い感受性を示す条件を見出した。 この実験条件を複数の遺伝毒性物質および非遺伝毒性物質で検証するため、食品添加物や食品汚染物質など食品に含まれる可能性のある化学物質の遺伝毒性検出を目標として、グリシドール、アクリルアミド、過酸化水素、NaCl、エタノール等の化合物を用いて実験を行った。その結果、グリシドールや、アクリルアミドの活性代謝産物であるグリシドアミドといった遺伝毒性物質に対して TKO 細胞は高い感受性を示し、両者の IC50 の差はグリシドールで3.3倍、グリシドアミドで2.5倍であった。一方で NaCl やエタノール処理では TKO 細胞は wt 細胞と比べてやや高い感受性を示したが、その IC50 の差は1.2~1.8倍程度であった。これらの結果から、IC50TKO/IC50wt が遺伝毒性検出の指標として有効である可能性が示唆された。ただし過酸化水素処理では両細胞ともほぼ同程度の感受性を示しており、本試験法の限界として、このような細胞障害性が強い物質の判定には適さないと考えらえる。今後、代謝活性化を必要とする物質を含む複数の化学物質を被験物質として引き続きアッセイを行うことで、試験法の有効性及び適用可能範囲が明らかになると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように、平成25年度の目標であった、代謝活性化を要しない化合物を用いて被験物質の遺伝毒性を TKO 細胞と wt 細胞の感受性の差によって評価するプロトコールの確立については、おおむね達成できたと考えている。 膜障害などの細胞毒性とは異なり遺伝毒性が細胞生存率に反映されるには DNA 複製を経る必要があり、複製回数が多いほど、すなわち培養期間が長いほど細胞生存率への影響が顕著になる。そのため遺伝毒性の検出は一般的にコロニー形成試験のように長期間の培養を要するが、本試験では迅速・簡便なスクリーニングを目的としているためにできるだけ小規模な培養条件でアッセイを行うことを目指して検討を行った。日本薬局方における細胞毒性試験でも用いられる24-well プレートを用いた場合には容易に遺伝毒性物質によるTKO細胞と wt 細胞の感受性の差を検出できたが、より小スケールな96-well プレートを用いた場合には非処理群の細胞が短時間でコンフルエントに達してしまうために長期間の培養が困難であった。そこで細胞数や培養条件を様々に変えて実験を繰り返すことで、最終的に96-well プレートでも遺伝毒性を検出できる条件を見出すことに成功した。 このように平成25年度の目標である測定条件の確立はほぼ達成したが、条件検討に多くの時間を要したために測定できた被験物質の数が当初予定よりも少なくなってしまったため、26年度も引き続き測定を継続し、有効性と適用範囲の検証を行う。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、さまざまな遺伝毒性物質と非遺伝毒性物質に対する wt 細胞と TKO 細胞の生存率を MTS アッセイにより測定する。前年度で測定した被験物質は主として DNA に付加体を形成する化合物であり、酸化損傷や DNA 鎖切断生成など他のメカニズムによる遺伝毒性についても検証するため、酸化剤やトポイソメラーゼ阻害剤を用いたアッセイを実施する。 これに平行して、市販の薬物代謝酵素誘導ラット肝ホモジネート(S9 mix)を用いて代謝活性化条件を検討する。S9 mix の培地への添加によっても細胞生存率が低下することが予想されるため、S9 mix の添加量について0.1~5%の範囲でシクロフォスファミドやベンゾ[a]ピレンを被験物質として代謝活性化に必要十分な添加量を検討する。これにより代謝活性化の条件が確定したら、複数の被験物質について代謝活性化あり、なし両方の条件でアッセイを行い、得られた結果をこれまでに報告されている知見と照らし合わせて試験法の有効性と適用範囲を考察する。 また TKO 細胞の感受性亢進が DNA 損傷に起因し、複製阻害による複製フォークの崩壊とそれに伴う二重鎖切断が生じることで細胞死が引き起こされていることを裏付けるために、遺伝毒性物質または非遺伝毒性物質で処理したTKO細胞およびwt細胞の抽出液を用いてγ-H2AX、モノユビキチン化PCNA、リン酸化チェックポイントキナーゼ(ATR、Chk1)等の Western bloting を行い、TKO 細胞を用いた遺伝毒性評価系の分子生物学的基盤を確立することを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度に購入予定のマイクロプレートリーダーについて、見積依頼していた業者からの納品が遅れ、購入手続き自体は当該年度内に終了していたものの、マイクロプレートリーダー本体の納品が2014年3月28日、制御用PCの納品が4月2日となり、支払請求が次年度扱いになったため。 次年度使用額は上記マイクロプレートリーダー一式の購入費用として支出予定である。
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