研究課題
環境中の化学物質による遺伝毒性の多くはゲノムDNAがアルキル化、酸化、付加体形成などの修飾を受けることに起因する。ゲノムに生じる点突然変異の大部分はこれらの損傷塩基を鋳型として複製を行う損傷乗り越えDNA合成(translesion synthesis; TLS)により生じると考えられている。一方でTLSが働かなければ、複製フォークの崩壊により細胞の生存に重大な影響を引き起こす。実際、TLS において中心的な役割を担うTLSポリメラーゼを欠損した細胞はさまざまな変異原に対して高い感受性を示すことが報告されている。本研究において、我々はTLSポリメラーゼのうちPolη、Polι、Polκを三重に欠損したtriple knockout(TKO)マウス胎性線維芽細胞の解析を行った。TKO細胞はベンゾ[a]ピレン、メタンスルホン酸メチル、マイトマイシンCといった異なる作用機序の変異原に対してPolη、ι、κそれぞれの単独欠損細胞と同程度またはより高い感受性を示した。そこでTKO細胞の高感受性が遺伝毒性の評価に適用可能であるか検証するためさまざまな遺伝毒性物質または非遺伝毒性物質に対する野生型(WT)細胞とTKO細胞の半数阻害濃度(IC50)比を調べたところ、10種中9種の遺伝毒性物質に対して2.4~5.3、7種中6種の非遺伝毒性物質に対して0.8~1.6であり、IC50WT/IC50TKO>2を遺伝毒性の判定基準とした場合の感度は90.0%、特異度は85.7%であった。またTKO細胞ではTLSポリメラーゼのリクルートに重要な役割を担うユビキチン化PCNA、DNA二重鎖切断の指標であるγ-H2AX、S期チェックポイントの活性化を示すリン酸化Chk1等のDNA損傷応答因子の活性化が野生型細胞と比べてより低い濃度の遺伝毒性物質処理でみられ、TKO細胞の遺伝毒性物質に対する高感受性が複製阻害に起因することが裏付けられた。これらの結果から、TKO細胞の高感受性を利用した遺伝毒性試験の有効性が示された。
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The Journal of Cell Biology
巻: 209 ページ: 33-46
10.1083/jcb.201408017