効率的に葉緑体ゲノムの形質転換と遺伝学的な解析が可能であるモデル陸上植物ゼニゴケを利用して、葉緑体ゲノム断片の細胞核への移動(葉緑体ゲノム収奪)を計測する実験系を確立した。まず、ゼニゴケでの葉緑体ゲノム収奪の発生頻度を測定したところ、タバコ等の被子植物と比べ、低頻度(0.001%以下)であることが判明した。このゼニゴケの特長を利用して、葉緑体ゲノム収奪が発生する変異体のスクリーニングを行い、候補遺伝子を単離することに成功した。候補遺伝子のジーンターゲティングによる遺伝子破壊とその相補ラインを作出し、核ゲノムへ移行した葉緑体ゲノムの探索のためNGS解析を行った。本研究期間内に候補遺伝子の破壊による葉緑体ゲノム断片の移行を確認できていないが、解析手法を改善し、引き続き探索を進める。 また、本研究から派生して、葉緑体ゲノムに蛍光タンパク質をコードする遺伝子を安定して維持し、CFPの発現が確認できる葉緑体形質転換体の作出に成功した。このラインを利用することで、今後オルガネラゲノムの収奪についても解析が進むものと期待される。 葉緑体形質転換が可能なゼニゴケの特徴を利用して、クロロフィル生合成に関わるChlB遺伝子の破壊を行った。解析の結果、chlB変異体では短日条件においてクロロフィルの蓄積量において著しい減少が起こっていた。ゼニゴケのように乾燥を嫌い多湿な条件を好む植物にとっては、光が射さない環境(短日条件)を好む傾向が見られるが、ChlBはそのような環境での生存に必須な遺伝子であることが示唆された。
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