研究課題
挑戦的萌芽研究
生体膜共役輸送系は、栄養物質の取り込みや老廃物の排出に働き、細胞存続の基盤となる輸送系である。共役イオンとしてH+共役型とNa+共役型が知られていて、植物と動物を区別する大きな要素の一つである。陸上高等植物はH+共役型であるが、我々はその祖先植物のシャジクモのリン酸輸送系はNa+共役型であることを報告した。シャジクモのEST データを利用してリン酸輸送体の遺伝子探索を行ったところ、ただ一つの遺伝子が見つかり、それは高等植物の細胞膜リン酸輸送体全ての祖先型であることが判明した。本研究では、このシャジクモリン酸輸送体と高等植物リン酸輸送体の遺伝子解析と、膜輸送体としての生理解析を組み合わせることで、植物細胞における生体膜共役輸送系の分子基盤と進化がどのように成立したかを明らかにすることを目指す。今年度の実験では、シャジクモ節間細胞のESTデータから見つかったリン酸輸送系遺伝子の系統解析から、現在判明している遺伝子配列は、全ての陸上植物の祖先型となり、ミカヅキモやアオミドロの同じ遺伝子と一つのクレードを形成することが明らかとなった。遺伝子全長が明らかではなかったため、その解読を進めるとともに、配列情報の解析を行ったところ、H+輸送に必要とされるアミノ酸残基が保存されておらず、Na+共役であることを強く示唆するものであった。また、生理機能の解析を進め、シャジクモ、オーストラリアシャジクモを用いて、放射性リン酸の輸送活性の測定も行った。また、関連輸送系遺伝子の電気生理学的解析を進めた。
1: 当初の計画以上に進展している
これまで共役輸送機構の進化に焦点をあてた研究は存在しない。その中で、本研究で目指したリン酸輸送系の解析から、共役イオンが異なることがどのような分子機構で成立しているか、それらがどのように進化しているかを明らかにすることが出来そうである。
現在、シャジクモが持つただ一つのリン酸輸送体遺伝子の全長解析を進めているが、これまでどの植物でも知られていなかったほど特殊な遺伝子構造をしていることが明らかになりつつある。それらの発現がどのように調節されているかを明らかにする予定である。また、この遺伝子構造が本来の機能とどのように関連するかの解明を進めている。さらに、単離遺伝子を酵母に組み込むことで、活性測定のための新しい系を確立することを予定している。ゼニゴケは陸上植物の最基部植物とされ、これまでにも多くの遺伝子解析が進められている。そこで、ゼニゴケのリン酸輸送機構について、生理活性解析と遺伝子発現解析を同時進行させ、この植物の持つ共役リン酸輸送能が、どのように規定されているかを明らかにする。
本年度に進めた遺伝子解析において、より広範囲の材料へと進める予定であったが、実験とそれに伴う支出が年度内では終わらなかったので、次年度へと使用額の繰越しを行った。シャジクモの遺伝子解析、さらにコケ植物や接合藻類の遺伝子解析に使用する予定である。また、遺伝子の機能解析のための形質転換酵母の作成や、機能ー構造相関の解析にも使用を予定している。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
Plant, Cell & Environment
巻: 36 ページ: 1826-1837
10.1111/pce.12090
Plant & Cell Physiology
巻: 54 ページ: 1571-1584
10.1093/pcp/pct107