本研究の目的は、蛍光発色団DFHBIを結合するRNAアプタマー配列の技術を応用し、藻類に蛍光を発するRNA分子を産生させ、その配列が捕食者であるウミウシの細胞や生殖系列になどに水平転移するプロセスを、蛍光標識によって追跡・観察する実験手法を開発することである。これまで、この蛍光RNA配列(米国のjaffrey博士らによって発明され、spinachと命名された)の機能が植物・藻類の系で試された例はなかった為、本研究の最大の挑戦・難所は、この蛍光RNA分子技術の有用性を植物・藻類の系で検討し、実用化することだった。初年度はまず、RNA分子の配列デザインと蛍光標識の基礎技術から検討を始め、in vitro 系および 大腸菌の系で、それぞれRNA分子由来の蛍光を検出することに成功した。次いで、それらの知見を基礎として、植物実験用に改変した各種のキメラ遺伝子/ベクターを設計・作成し、藻類よりは安定形質転換体の作成が容易なシロイヌナズナでまず実験を進めた。具体的には、形質転換T3世代で各種導入遺伝子のホモ接合体植物を実験に供した。その結果、RNAを大量発現させた場合でも、検出できる蛍光強度は非常に弱く、植物・藻類の葉緑体や細胞壁が発する自家蛍光に遠く及ばなかった。そこで、根からプロトプラストを作製し、葉緑体や細胞壁のない植物細胞中での蛍光の性質を解析したが、やはり、得られる蛍光強度は非常に低いことが分かった。このため、現在のままの要素技術では、遺伝子の水平転移の場合のように存在量の少ないRNA分子を蛍光検出するのは適していないことが明らかになり、現時点では、ポジティブな研究成果を発信するには至っていない。このため、(1)植物体の中での蛍光強度を飛躍的に高める方法、(2)現状のような弱い蛍光強度でもそれなりに利用できる生物学的実験・検出系、の二点について、引き続き検討を進めている。
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