GC/MS解析によってステロールやテトラヒマノール等のテルペノイドが検出されなかった嫌気性原生生物のうち,フォルニカータ生物群の1種であるKipferlia bialataのトランスクリプトーム解析およびゲノム解析を行った。K. bialataにおいてステロール合成系の遺伝子は見つからず,GC/MS解析によって得られた結果と矛盾はなかった。その他の脂質合成系を検索した結果,他の真核生物同様にグリセロ脂質やスフィンゴ脂質の合成に関わる遺伝子は存在していた。スフィンゴ脂質合成系に関しては,スフィンゴシンに1つの脂肪酸が結合したセラミドの合成能はあるものの,モデル動物等で最終産物として一般的に合成されるスフィンゴリン脂質やスフィンゴ糖脂質の合成能はないことが明らかとなった。つまり,K. bialataではセラミドがスフィンゴ脂質合成系の最終産物として合成され機能していると考えられる。セラミドはステロールと同様に親水性部分が小さく,細胞膜脂質二重層の片方の層からもう片方の層へ移動するフリップフロップが比較的容易に起こりうると考えられる。このフリップフロップが細胞膜の柔軟性に貢献しているとすれば,K. bialataにおいてセラミドがステロールの代替物質として機能している可能性がある。今後,質量分析によってK. bialataに実際にセラミドが存在するか確認するとともに,その機能を検証する予定である。
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