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2014 年度 実施状況報告書

人工最小生態系の進化ダイナミクスを分子レベルで記述する

研究課題

研究課題/領域番号 25650147
研究機関大阪大学

研究代表者

細田 一史  大阪大学, 未来戦略機構, 准教授 (30515565)

研究期間 (年度) 2013-04-01 – 2016-03-31
キーワード人工生態系 / 進化ダイナミクス / 分子機構 / 微生物実験系 / 反応速度論 / 個体群動態
研究実績の概要

生態系の変化は、個体群動態だけでなく生物の形質の変化も含んでいる。この形質変化(表現型可塑性や進化等による)があるため、単純な実験生態系ですら実験開始直後しか個体群動態を説明できないのが科学の現状である。ここで、生物の形質変化は、個体内の生化学反応など分子機構に還元できる。では、分子機構まで考慮すれば、一つの数理モデルで表現型可塑性や進化を含む個体群動態を説明できるのだろうか?本研究では、極度に単純化した人工生態系の実験進化について、「個体内外の分子と個体群の動態」を測定し、その結果をもとに細胞内の生化学反応まで考慮した個体群動態の数理モデルを作る。これにより、表現型可塑性を含む、1000世代程度の実験進化における個体群動態が、一つの数理モデルでどの程度説明可能になるのかを明らかにする。
本年度は、計画通り、追加実験解析及び数理モデルの構築を行った。
追加実験解析では、実験進化の過程におけるゲノムの変化を解析した。さらに、進化による個体群動態の特徴の変化から、進化の過程での適応度の変化を推定し、この適応度の変化とゲノムの変異数の関係を説明する単純な進化の数理モデルを作成した。結果、追加実験解析で得られたゲノム配列の変化は、この単純なモデルで非常によく説明できることが分かった。
新しく作成した分子レベルを含む個体群動態の数理モデル(上記の進化のモデルとは異なる)は、個体間のやり取りによる環境変化に依存した個体内の生化学反応の変化から、個体群動態における表現型可塑性による変化をよく説明できるものが得られた。これは上記の進化のモデルとは別の物であり、進化を含まないが、これらを足し合わせることで最終目的のモデルにすることができる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究はおおむね順調に進展している。得られている結果としては、ゲノムの変化やその数理モデルなど、想像以上に興味深い結果が得られ、科学的な理解に向けては予定以上に大きく前進している。ただし、これは進行が早くなったわけではないため、(1)当初の計画以上に、ではなく、(2)とした。
具体的には、変異の蓄積の過程について、これまでは進化前後しかデータがなかった。この結果では、進化における適応度の変化量に対し、変異数が少ないように考えられていた。しかしながら、まず単独の生物の実験進化についてのゲノム変化と数理解析を行い(論文採択済み)、これを参考にしてさらに単純な進化の数理モデルを作成した。この数理モデルを用いて解析すると、この進化の途中の過程についての変異数を全て推定することができ、現実的にもあり得る数であることが予想された。そのため、追加実験にて進化の途中のゲノムを解析したところ、推定された変異数と非常によく一致する実験結果が得られた。このことは、個体群動態の数理モデルから推定される適応度により、進化を説明できるという事であるため、個体群動態と進化動態の二つを結びつける重要なデータが得られたと言える。
また分子レベルを含む個体群動態の数理モデルに関しては、非常に複雑で大自由度のダイナミクスモデルになるため、その特徴の把握や、計算としての扱いに力を注いだ。結果、大自由度ではあると言っても10程度の自由度のダイナミクスモデルにより、個体内部の生化学反応、および環境分子や個体群の動態に関し、実験結果の特徴をよく反映する数理モデルの作成に成功した。
このように、進行速度としては予定通りの達成度であるが、得られている質としては予想以上の達成度である。

今後の研究の推進方策

これまで計画通りに進んでいるため、今後も計画通り、追加実験解析(計画書ⅳ)、数理モデルの構築(計画書ⅲ)と、総合解析および研究のまとめ(計画書ⅴ)を行う。
具体的には、人工生態系で得られた実験結果は、すでにハイレベルな雑誌に投稿したがRejectされている。よって今後は、ゲノム解析および進化を説明する簡単な数理モデルが追加で得られているため、まとめなおして投稿する。このように内容はレベルアップするが、最先端でホットな分野であることと、実験だけでなく数理モデルに関する研究に費やす時間などを考慮して、少しレベルを落とした雑誌に投稿する予定である。
分子レベルを含む個体群動態の数理モデルに関しては、この骨格を作り、これを一般的な生態系に適応すべきであるということを主張するPerspectiveを投稿中である。この数理モデルは、生化学反応の速度論において基本的に用いられている骨格と、個体群動態において基本的に用いられている骨格を統合したモデルである。個体群動態における個体の内部の生化学反応の動態を記述するため、数理モデルは現実の生態系と同じく、階層構造になっている。Perspectiveの趣旨は、一般的な生態系ダイナミクスの理解であり、本研究の人工生態系に特化したものではなく、また進化も含まないが、本研究のために作成した数理モデルである。そもそも本研究においても、対象としている人工生態系はあくまでもモデルであり、目的は一般的な生態系とその進化のダイナミクスを分子レベルで理解することである。
今後は、進化のモデルと、分子レベルを含む個体群動態の数理モデルをまとめて分子・個体群・進化の統合数理ダイナミクスモデルを作り、該当する実験データと合わせる。また、この結果を上記二つとは別の論文として投稿する。

次年度使用額が生じた理由

前年度に所属機関、職務・研究環境の変化があったため。

次年度使用額の使用計画

追加実験解析、数理モデルの構築と、総合解析および研究のまとめに使用する。特に、「現在までの達成度」に既述したように、予想以上の質が得られているので、次年度のさらなる追加実験解析に使用する。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2015 2014

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 4件)

  • [雑誌論文] Adaptation of a Cyanobacterium to a Biochemically Rich Environment in Experimental Evolution as an Initial Step toward a Chloroplast-Like State2014

    • 著者名/発表者名
      Hosoda, K., Habuchi, M., Suzuki, S., Miyazaki, M., Takikawa, G., Sakurai, T., Kashiwagi, A., Sueyoshi, M., Matsumoto, Y., Kiuchi, A., Mori, K., Yomo, T.
    • 雑誌名

      Plos One

      巻: 9(5) ページ: e98337

    • DOI

      10.1371/journal.pone.0098337

    • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
  • [学会発表] ニッチとは何か2015

    • 著者名/発表者名
      細田一史
    • 学会等名
      第62回日本生態学会大会
    • 発表場所
      鹿児島大学(鹿児島県鹿児島市)
    • 年月日
      2015-03-19
    • 招待講演
  • [学会発表] 結局その○○学で何がしたいのか2014

    • 著者名/発表者名
      細田一史
    • 学会等名
      生命情報科学若手の会・第6回年回
    • 発表場所
      理研CDB(兵庫県神戸市)
    • 年月日
      2014-10-29
    • 招待講演
  • [学会発表] 共生の進化原理とは何か?2014

    • 著者名/発表者名
      細田一史
    • 学会等名
      第3回マトリョーシカ型生物学研究会
    • 発表場所
      神戸大学(兵庫県神戸市)
    • 年月日
      2014-07-11
    • 招待講演
  • [学会発表] 微生物実験系に「生物群集はどのように変化するのか」を聞く2014

    • 著者名/発表者名
      細田一史
    • 学会等名
      龍谷大セミナー
    • 発表場所
      龍谷大学(滋賀県大津市)
    • 年月日
      2014-05-26
    • 招待講演

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公開日: 2016-05-27  

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