昨年度の試験により,根圏CO2,特に可溶性CO2,を植物は葉まで輸送することを明らかにした.このことは,近接する植物に根圏のCO2を供給していることが推定されるが,これまで直接的に評価した例は皆無である.本年度は,閉鎖チャンバーを用いた安定同位体13CO2付加試験を実施し,実際に近接する植物(水で生育)が根圏由来のCO2を利用しているかを付加1時間後に評価した.
その結果,根圏にBicarbonateとして13CO2を付加した場合,その植物そのものの根圏には吸収されるが,地上部への移行がみられず,また近接する植物への13Cの供給が認められなかった.一方,根圏に可溶性13CO2として付加した場合,その植物そのものの根圏に比較的多く13Cがみられるとともに,地上部にも13Cが認められた.加えて,近接する植物の地上部においても13Cを確認した.このことは,植物は根圏のCO2を植物体の蒸散活動を通じて,地上部に供給し,自身へのCO2供給のみならず,近接する植物にCO2を供給することをはじめて明らかにした.
これまでは,根圏由来のCO2は,みかけの光合成としては分離評価できず,その重要性がほとんど指摘されてこなかった.しかし,本研究により,根圏由来のCO2は根から植物が吸収し,特に可溶性CO2については大気中に揮発させ,近接する植物へのCO2の供給源となることを示した.このことは,根圏由来のCO2が全球におけるCO2循環に大きく寄与している可能性を示すものとなった.
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