オモダカとウリカワは同属の植物であるにもかかわらず萌芽の際に土中伸長する器官が異なり,オモダカは土中での萌芽時に最初から節間と葉を伸長させるのに対し,ウリカワは最初に葉だけを伸長させ,出芽後に節間を伸長させる。オモダカとウリカワの萌芽植物体の出芽過程においてみられる節間の伸長は,成長点を地表面に持ちあげることにおいて重要な役割があると考えられる。本研究は,これらの節間の伸長を誘導する因子を明らかにすることを目的とした。 嫌気条件にした水中においてエチレンはオモダカとウリカワの節間伸長を促進せず,オモダカの節間伸長に関しては水中環境がもたらすO2欠乏によって促進されることを明らかにした。ウリカワの節間伸長に関してはO2欠乏だけでは促進されなかった。また,ウリカワの節間伸長は,水中での土壌やガラスビーズの覆土処理によって促進されることを明らかにした。エチレン合成阻害剤の処理は,オモダカの水中での節間伸長の促進とウリカワの水中での覆土処理による節間伸長の促進に影響を及ぼさなかった。ウリカワに嫌気条件下でCO2を処理したところ,水中で覆土した条件と同レベルまで節間伸長が促進された。水中での溶存CO2濃度を測定したところ,ガラスビーズで覆土処理を行うとウリカワ塊茎付近で有意に溶存CO2濃度が上昇し,この溶存CO2濃度の上昇は出芽後に観察されることを明らかにした。 以上のことから,オモダカでは,湛水によって生じる水田土壌内のO2欠乏によって塊茎から節間を伸長させて出芽し,その後に葉を成長させてロゼットを形成することが明らかとなった。ウリカワでは,嫌気条件である水田土壌内で塊茎から葉を伸長させて出芽し,出芽後のO2供給によって塊茎付近でのCO2発生量を増加させ,ガス拡散が抑えられた水田土壌内で高濃度に蓄積したCO2によって節間伸長を促進し,成長基部を持ち上げることが明らかとなった。
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