研究課題/領域番号 |
25660026
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
金地 通生 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (90211854)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 植物工場栽培 / LED / パルス照射 / 施設養液栽培 / 光利用効率 |
研究概要 |
近未来の施設園芸生産における省エネLED光源の効率的有効利用を目的として、LED光源の特徴を活かした極短い明滅パルス照射下での葉菜類栽培を検討した。葉菜類として成長が早いリーフレタスおよびコマツナを用いた完全閉鎖型人工光植物工場栽培のモデル試験として,空調(室内温度25℃)室内および小型恒温器内で発芽後約2週間生育させた苗を口径約7cm×深さ約7cmのビニールポットにベルムライト培地を入れて定植し、養液を底面吸水して養液栽培を行った。光源LEDsは赤色波長と青色波長を4:1に直鎖状に並べて繰り返し配置した熱放射の少ない棒状LEDs管を用い、光強度と日長一定下での成育量を比較した結果、リーフレタス、コマツナ共に栽培20日間でパルス照射時の周波数(1~500Hz)に対する生育反応において応答の違いが見られた。 リーフレタスでは周波数が高くなるにつれて生育がより増大する傾向が見られた。すなわち、500Hz(1 ms点灯/1 ms消灯)パルス照射下で最も生育が増大した(葉重で119%,葉面積で130%)。生育促進量の誤差を考慮して有意な生育増加が認められるのは110%以上と考えると、50Hz以上が有効であると結論する。 コマツナでは周波数が1.67~50Hzの範囲で生育増加(116~125%)が見られた。中でも50Hzでの増加が著しく、最も効果的なパルス照射間隔であると結論する。本栽培試験は育苗期から初期生育期までの栽培環境(受光量,気温、養液濃度、吸水量)を厳格に制御して行った結果であり、データの信頼性は高いと考えるが、野菜苗などの個体間の生長バラツキも当然考慮すると、連続光栽培に対して少なくとも1割以上の生育増加が明確に認められるパルス照射間隔として50~500Hzが有効とし、リーフレタスおよびコマツナに共に有効性が期待できるのは50Hzと結論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
LED光源による極短いパルス照射実験では、パルス周期と明滅割合を厳格に制御出来るパルス調光装置の作動確認と、連続照射を比較対照区とするために、先ず50%Duty比明滅(明:暗=1:1)を初期設定値として光強度を同等とする栽培条件の設定に十分な予備試験期間を要した。特に生育実験の材料とした葉菜類の初期生育は光合成にのみ多大に依存していることより、栽培の光環境におけるパルス周期以外の統一条件設定を慎重かつ厳格に時間をかけて行ったことより、予定した種数の再現性を考慮した栽培試験は未完了となり、次年度に継続する。 また、LED光源によるパルス照射の生育への効果は、連続照射下での場合と同等以上であれば、明滅比(Duty比)が50%の場合、発光素子の実質的な長寿命化に繋がることが明らかで、先ず成育量に限定してその効果を確証することが最重要であると考え、本年度は生育試験の再現実験に十分な期間を要して行ったため、生育差の説明要因の解明に関する生理学的な測定による検証部分がやや遅れ気味である。特にパルス照射下での栽培中に展葉した葉の光合成特性を測定して、生長への関連性を評価するに当たり、調光が可能な特注のLED測定用光源の作成が必要となり、その供給が年度末になったため、測定条件検討を含めた予備試験に続く実質的な測定が年度跨ぎで開始した。
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今後の研究の推進方策 |
これまで葉菜類(リーフレタスおよびコマツナなど)の完全人工光養液栽培試験におけるLEDパルス照射法による生育促進が明らかに認められたことより、さらに栽培試験に用いる種数を増やして、LEDパルス照射への生育応答の違いについても検討を進める方向である。現在の商業的な植物工場栽培生産においては、LEDパルス照射法の実用的な活用例はないことより、先ず成育量への影響を確証することで、出来るだけ早期に植物工場野菜生産現場での実際の生産性の増大に直結する可能性を考慮し、LEDパルス調光装置の開発に関わる調光のための基礎データの集積を最優先課題の解決方向とすることで、栽培に関する特許性にも着目した検討を進める。 さらにこのLEDパルス照射法による生育促進効果の科学的な説明要因の解析として、光合成特性に関して特に光利用効率の解明に焦点を絞った光化学反応系に関与するクロロフィル蛍光反応測定、並びに光ー光合成反応曲線の解析へと進める。同時に、生育時の光環境の変化は光形態形成反応への影響を通じて葉の形態的、質的、機能的形質を変化させる可能性にも着目した検討も行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初購入予定であった物品(Junior-PAM 一式、WALZ社製クロロフィル蛍光反応測定装置)は装置仕様の若干の変更により本研究の測定対象材料への適用において再考を要する必要性があることより、本年度での購入を見送ったため、その相当額が年度内未使用となり、次年度使用額への変更となった。この測定装置を購入しなかったことで本研究に重大な遅延が生じることはないように、別仕様の測定装置(FluorPen-FP100-MAX)は本年度経費で購入済であるので、データ測定並びに解析に支障が生ずることはない。 本年度での購入を見送った物品(Junior-PAM 一式、WALZ社製クロロフィル蛍光反応測定装置)については、実験系並びに測定対象の変更により、その装置仕様を考慮してより精度が高く、より明瞭なデータを収集できることへの活用性を検討の上、次年度以降での購入を再考する。 本年度で緻密な栽培条件検討が終わったことより、次年度以降では栽培環境条件設定の多様化と栽培試験の増加により、栽培試験に必要となる材料費および消耗品費の支出が増額する予定である。それに伴って生理学的な測定項目や機器計測回数が増加し、測定に付随的な消耗品等が大幅に必要となる。さらに国内学会(佐賀、東京)における成果発表を予定している。
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