研究課題/領域番号 |
25660026
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
金地 通生 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (90211854)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 植物工場野菜栽培 / LEDs / パルス照射 / 養液栽培 / 光合成 / 光利用効率 |
研究実績の概要 |
植物工場栽培での新たな育成用ランプ照射方法の開発を目的として,on-offスイッチの応答性が極めて早い可視発光ダイオード(LEDs)を用いた極短周期パルス照射法(間欠照射法) による野菜栽培法における成長と光合成を生理学的に調査して,その栽培光源としての有効性を検討した.パルス光周波数0.5~5Hzで連続光より最大増加率で約20%まで成長が有意に促進され,低い周波数(0.2Hz)では成育が劣る傾向が見られた.成長が連続光下と同等または促進されたパルス光下で成育した葉形質(形態,葉厚,クロロフィル含量,全可溶性タンパク質含量)にはパルス照射の影響は見られなかったが,周波数の低いパルス光下では連続暗期が長くなり,葉が陰葉化して成長は抑制されると考えられる. パルス光への光合成機能応答について,連続光下で出展葉した葉のパルス測定光下での光合成速度(光飽和下,PPFD 200μmol)は10Hz以下では低下したが,弱光下(PPFD 80μmol)では影響を受けなかった.光強度―光合成速度曲線による解析から,弱光下での見かけの量子収量に及ぼすパルス光照射による有意な影響は見られなかったが,パルス光下で出展葉した葉の光合成速度(光飽和下,PPFD 200μmol)は有意に高くなったことより,パルス光への光合成機能的な適応機作の可能性も示唆された.光化学反応系についてクロロフィル蛍光測定から,Fv/Fm(光化学系Ⅱの最大量子収率)に有意差は見られず,光強度200μmol,DT比(明期/周期)50%のパルス光下でも植物は光ストレスを受けずに光合成機能的には正常に発達した. 本年度の成果を含めたこれまでの解析より,室内完全人工光利用型野菜工場でLEDsを用いた実用的なパルス光照射法が連続光下での成長量を上回る光照射法として生産栽培に利用が期待できることを示唆した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
植物育成用光源としてのLEDsの開発は未だ発展途上であること,加えて本研究課題のオリジナリティーであるLEDs光源を用いたパルス照射制御装置も独自開発する必要があったことより,初年度から2年目にかけて栽培実験用の光源装置の開発と平行しながらの照射条件検討実験が必然的であった.従ってパルス照射条件として幅広い周波数段階やDT比の検討を踏まえ,再現性実験に3ヶ年を要した結果,実験室レベルでの小規模栽培実験におけるLEDsパルス照射法により,リーフレタスの成長を促進できる周波数条件を見出すことができ,植物栽培法に関する特許取得に向けた申請を継続中である.その実用化において,幅広い園芸葉菜類の成育特性に適正なパルス照射ができるような光強度とDT比の可変性も含めた調光システムの開発へと繋げるためには,さらに種類数を増やした栽培実験を重ねて行う必要がある過程途上で,現時点での成果は実際の野菜工場生産されている代表的なリーフレタス栽培を基本モデルとした基礎的なデータの集積にとどまっている.本研究を基盤とする最終的な目標は,早期に実用的なLEDsパルス照射栽培法の確立であり,LEDsランプの特性である長寿命・省エネルギー性を活かした経済的にも効率的な調光システム構築に向けた調光器開発をも含めた栽培システムの特許化への申請段階に達している. 特にパルス照射下での成育促進の機作として,光合成の機能適応についてCO2ガス交換法,並びにクロロフィル蛍光測定により明らかにできた成果は,光合成生理学的な見地,園芸栽培学的な見地,植物栽培環境制御学的な見地に分けてそれぞれの専門学会に発表を行い,完全閉鎖型植物工場生産の実用化が世界に先がけて進んでいる我が国での先行研究成果として,2016年にアメリカ ミシガン州立大学で開催する第8回 園芸における光 国際シンポジウムで発表予定である.
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今後の研究の推進方策 |
当初計画した研究内容は実行状況に応じた修正を加えながらも概ね遂行し,完全閉鎖型植物工場栽培におけるLEDsパルス照射法によるリーフレタスをモデル園芸葉菜植物とした成育促進について,最適周波数およびDT比を基礎的知見として明らかにできたが,本研究の延長上にある最終目標としてのパルス照射栽培法の早期実用化のためには,幅広い園芸葉菜類の成育特性に適正なパルス照射条件にも適用できるような光強度とDT比の可変性も含めた調光システムの開発へと繋げるためのさらに栽培種類数を増やした栽培実験を重ねて行う必要がある. 平成28年度での本学術研究助成基金助成金使途のための補助事業期間延長が承認された研究経費は,2016年度アメリカ ミシガン州立大学で開催の国際シンポジウムでの成果報告に関して使用予定ではあるが,加えて今年度も栽培種数を増やしたパルス照射栽培法での成長生理学的な検証をさらに行う予定である。特に学術的にも新規な知見として見出したパルス照射下での光合成的機能適応の機作に関しては,クロロフィル蛍光測定によるより詳細な検証を行うことで,植物の光適応(光利用効率の変化)および光ストレスへの適応機作に関する基礎生理学的な知見の集積に寄与する研究方向で行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度までで当初計画に基づいた研究は概ね遂行が完了してはいるが,得られた研究成果の内容を国際的に広く発表する学会等の場として,本研究課題と密接に関連する国際学会(8th Internationnal Symposium on Light in Horticulture,アメリカ ミシガン州立大学)が平成28年5月22日~27日に開催され,演題「Effects of pulsed lighting based LEDs on the growth and the photosynthesis of leaf lettuce」として発表を予定している.その旅費支出としての平成28年度での本学術研究助成基金助成金使途のための補助事業期間延長を申請し,承認済みである。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年5月22日~27日に開催予定の国際シンポジウム(8th Internationnal Symposium on Light in Horticulture,アメリカ ミシガン州立大学)において,演題「Effects of pulsed lighting based LEDs on the growth and the photosynthesis of leaf lettuce」として発表を行うための往復渡航費,滞在旅費,並びに国際園芸学会誌(Acta Horticulturae)への投稿論文掲載費として支出予定である.
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