研究実績の概要 |
Epichloaeエンドファイトは、イネ科植物の細胞間隙で伸長し、共生関係を保っている糸状菌エンドファイトである。不完全菌であるNeotyphodium属エンドファイトは植物の種子を介して繁殖するため、外界の微生物や近縁種と遭遇する機会は限られているにも関わらず、生理活性物質の生産性などに著しい多様性が認められる。以前よりエンドファイトは疑似有性生殖を介して進化したと推察されているが、詳細は明らかではない。そこで、本研究では、エンドファイトの疑似有性生殖の細胞学的観察および新奇菌種の作出、疑似有性生殖によって得られた菌種のゲノム構造の解析を行い、糸状菌進化における疑似有性生殖の役割の解明と有効な利用法の確立を目指している。本研究では、異なるE. festucae菌株にハイグロマイシンまたはジェネティシン耐性遺伝子を導入し、同時にGFPあるいはDsRedにより蛍光ラベルすることで、菌糸融合と疑似有性生殖の結果現れた菌株を単離する実験系の確立に成功した。また、核局在性タンパク質と蛍光タンパク質の融合タンパク質を発現した菌株を作出し、菌糸融合の後に核がパートナー細胞に移行する様子を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。さらに、国産のエンドファイト菌株(約30菌株)の生理活性物資の生合成遺伝子群の分布を調べたところ、ペラミン生合成遺伝子(PerA)、ロリン生合成遺伝子群(LolAなど)、ロリトレムB生合成遺伝子群の分布に著しい多様性が認められた。サザン解析によりβ-tubulin遺伝子を調べたところ、約半数の菌株で複数のバンドが検出され、これら菌株が種間雑種である可能性が示された. また、Epichloe属菌とNeotyphodium属菌の異種間の細胞融合の観察に成功し、現在そのゲノム構造の解析を進めている。 以上の結果は、エンドファイトが疑似有性生殖により種間雑種を形成し, 遺伝的多様性を獲得している可能性を示した。
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