研究課題/領域番号 |
25660047
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
村瀬 潤 名古屋大学, 生命農学研究科, 講師 (30285241)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 人工土壌 / 腐植 / 水田 / 微生物 / 有機物分解 |
研究概要 |
土壌は、有機物、無機物、生物から構成される複雑系であり、自然状態の土壌を用いた場合、各構成要素が土壌の生化学反応や微生物活動などの土壌機能に与える影響・役割を個別に解析することは極めて困難である。本研究では、要素還元主義的アプローチに基づいて人工土壌の開発を行う。土壌の各構成要素を抽出あるいは調整した後に、様々な組み合わせでそれらを再統合し、代表的な土壌の生化学反応、微生物活性を再現できる土壌を構築する。人工土壌の開発を通じて土壌構成要素が土壌の生化学的機能に果たす役割を明らかにするとともに、人工土壌を用いた研究アプローチの可能性と限界を提示する。 1年目である本年度は、黄色土水田の作土から、植物遺体、土壌フミン酸、フルボ酸、土壌鉱物の分画と解析を行なった。また、無機陽イオン、陰イオンを抽出・定量を行い、人工土壌の構成表を作成した。土壌鉱物の分画に必要な湿式分解の過程で失われる無機陽イオンは、イオウを除いて土壌全体の1%未満であった。また損失したイオウの大部分は植物遺体および腐植物質に含まれており、それらを還元することで補充できることが明らかとなった。一方、ブレンダーによる分散処理によって回収された土壌微生物は、もともとの土壌に生息する微生物の0.1%未満であることが示された。また、DGGE解析の結果から回収された土壌微生物の群集構造も元の土壌とは異なっており、土壌粒子に強く結合した微生物を定量的に回収するのは極めて困難であった。そこで、土壌微生物以外の構成要素を合わせた人工土壌に、微生物源として全体の0.1%となるように土壌懸濁液を加え、稲わら粉末を加えて嫌気的に培養した。その結果、人工土壌は同様の条件で培養したオリジナル土壌の80%程度の二酸化炭素発生を再現することができたが、メタンの生成はオリジナル土壌の50%以下にとどまった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では初年度は土壌の分析と各要素の分離、分画が達成目標であったが、最終的に有機物の嫌気的な分解活性を測定することができ、炭酸ガス発生という点ではもともとの土壌に匹敵する人工土壌が作成できたことで、今後の更なる進展が期待される。一方で、供試した土壌は1種類だけであったので、特徴の異なる土壌について今後検討を進める必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の推進にあたり、初年度において最も律速となったのが、土壌腐植(フミン酸、フルボ酸)の抽出、精製であった。そのため、培養に供試できた人工土壌は20g以下であり、今後土壌腐植を大量に抽出することで、土壌構成要素の影響を解析するための条件を整えていく。また、培養についても同じ土壌について繰り返し行なうことで微生物群集の馴化を行なう。最終的には、安定同位体標識した基質(メタン、グルコース)などを用いて、人工土壌に生息する微生物群集の機能解析を経時的に実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画では初年度に特性の異なる複数の土壌を採取し、土壌構成要素を抽出する予定であったが、土壌腐植(フミン酸、フルボ酸)の抽出、精製に予想以上の時間を要したことから、本年度は1種類の土壌について小スケールでの実験系で効率的な抽出・精製方法を検討した。その結果、土壌の採取および処理に必要な当該年度の経費を支出するに至らなかった。 次年度は、次年度使用額を充当し、当該年度で確立した方法により、複数の土壌を採取し大スケールで土壌構成要素を抽出する。
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