土壌は、有機物、無機物、生物から構成される複雑系であり、自然状態の土壌を用いた場合、各構成要素が土壌の生化学反応や微生物活動などの土壌機能に与える影響・役割を個別に解析することは極めて困難である。本研究では、要素還元主義的アプローチに基づいて人工土壌の開発を行う。土壌の各構成要素を抽出あるいは調整した後に、様々な組み合わせでそれらを再統合し、代表的な土壌の生化学反応、微生物活性を再現できる土壌を構築する。人工土壌の開発を通じて土壌構成要素が土壌の生化学的機能に果たす役割を明らかにするとともに、人工土壌を用いた研究アプローチの可能性と限界を提示する。 2年目に確立したオリジナル土壌に匹敵するメタン生成活性を示した人工土壌に形成された微生物群集構造を、16SrRNA遺伝子をターゲットにしたアンプリコンシークエンスによって解析した。α多様性はオリジナル土壌に比べて著しく低く、メタン生成機能を果たすために必要となる微生物はすべての土壌微生物のうちのわずかなメンバーで構成されうることが示された。また、腐植物質の有無によって、鉄還元菌やメタン生成古細菌の存在比および構成比が異なっており、人工土壌の環境に応じて異なる微生物群がメタン生成という同一の機能を果たすことが示された。 土壌構成要素が人工土壌の微生物活性に及ぼす影響をさらに詳細に検討した。微生物源として用いる土壌は、前培養を経なくとも十分な機能を有することが明らかとなり、安定的な微生物源の確保が可能となった。腐植物質のうち、フルボ酸が特に微生物活性に大きな影響を与えており、調整の際のpHが重要な要因であることが明らかとなった。フルボ酸の低pHは微生物に直接影響する可能性と人工土壌に含まれるアルミニウムの可溶化による間接的な影響が想定された。また、人工土壌に粘土(モンモリロナイト)を添加することで有機物分解活性は著しく抑制された。
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