研究実績の概要 |
本研究では,質量分析法とRNA単離法といった新しい技術を駆使し,翻訳途中でリボソームから脱離(drop off)したpep-tRNAを詳細に解析することでdrop offに影響する因子を特定し,その機能を明らかにすることを目的とし,そこから得られた知見を元に新しい遺伝子発現制御機構の提唱を目指している.平成26年度は25年度に得られたrRNAとtRNA修飾塩基についてのdrop off変異株における細胞内pep-tRNAの詳細な解析とin vitro系によるtRNA-リボソーム相互作用の評価を行った結果,drop off表現型が亢進したrRNA変異体については野生型rRNA株と比べてdrop off産物pep-tRNAが細胞内で著しく蓄積していることやtRNAの相互作用が低下していることが判明し,これらの塩基はtRNAとリボソームA,P部位が安定的に相互作用するのに機能していることが示唆された.また,drop offを抑制したrRNA変異体についてはその逆の結果が得られたことから,E部位上のこの塩基にはtRNA-リボソーム相互作用を不安定にすることでいち早くtRNAをリボソームから放出する役割があることが示唆された.tRNA修飾塩基欠損体については,3つの3次構造形成に関わる修飾塩基に注目しそれらの各修飾遺伝子の二重,三重欠損株においてdrop off表現型が著しく亢進し,これらの修飾のdrop offにおける冗長性が示唆された.三重欠損株について細胞内のdrop off pep-tRNAを単離し詳細に解析したところ,本来修飾塩基を持つtRNA特異的にpep-tRNAの増加が確認された.このことから,これらの修飾塩基がdrop offの防止に寄与していることが示唆された.このように,本研究では,pep-tRNA drop offという観点で解析を進めた結果,これまで知られていなかったRNA分子の機能を見出すことができ,翻訳過程について新たな知見を提示できたと考えている.
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