研究課題/領域番号 |
25660055
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井上 善晴 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (70203263)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | メチルグリオキサール / Saccharomyces cerevisiae / 核分裂 / 液胞 / ホスファチジルイノシトール |
研究実績の概要 |
われわれは、メチルグリオキサール(MG)という細胞内代謝物が、酵母の核形態を成長軸に対して垂直に扁平な形(ジェリービーンズ型核形態)に変形させるとともに、娘細胞への核分配を停止させることを発見した。昨年度は、MG処理によって起こる液胞の肥大化が核形態を変化させる要因であることを明らかにした。本年度は、液胞の融合などに関与するホスファチジルイノシトール分子種について検討を行った。その結果、MG処理によりPI(3,5)P2レベルが上昇することを見いだした。Fig欠損株ではMG処理によりPI(3,5)P2レベルが上昇しなかった。Fig4欠損株はMG処理をしない状態でも肥大化した液胞形態を示すにもかかわらず、MG処理による核分配の停止が起こらなかった。さらにVac14欠損株ではPI(3,5)P2がほとんど検出されず、また肥大化した液胞を持つにもかかわらず、MG処理による核分配停止が起こらなかった。これらのことから、MG処理によるPI(3,5)P2レベルの上昇が、核分配停止と関連すると考えられた。 そこで、PI(3,5)P2結合タンパク質について解析を行ったところ、Atg18欠損株ではMG処理により液胞の肥大化が起こっても核分配の停止は起こらなかった。また、Atg18-GFPを用いて局在性を観察したところ、MG処理により液胞膜に局在することが分かった。Fig4やVac14が欠損した株では、Atg18-GFPの液胞膜局在は観察されなかった。これらのことから、MG処理により液胞膜でのPI(3,5)P2レベルが上昇し、PI(3,5)P2結合タンパク質であるAtg18が液胞膜に局在することが核分配停止のための条件であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
MG処理により核分配が停止するためには、PI(3,5)P2レベルが上昇することと、PI(3,5)P2結合タンパク質であるAtg18が液胞膜に局在することが必要であることを明らかにすることが出来た。PI(3,5)P2はホスファチジルイノシトール分子種としては、一番最近に発見された新しい分子種であり、細胞内での機能はまだよく分かっていない。核分配にPI(3,5)P2が関与するということはこれまでに報告例がなく、今回の研究で初めて見いだした現象であり、分子細胞生物学的意義は大きいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
Atg18が液胞膜に局在することがMGによる核分配阻害の必要かつ十分な条件であるかどうかを確認するため、Atg18に液胞膜貫通型のアルカリホスファターゼ(ALP)を融合させたAtg18-ALPを、PI(3,5)P2がほとんど検出されないVac14欠損株で発現させ、MG存在下での核分配がどうなるかを観察することで明らかにする。一方、MG刺激が核分配停止に結びつくシグナル伝達経路についての検討を計画している。われわれは既に、MGがTORC2-Pkc1シグナル経路を活性化することを明らかにしている。そこで、本経路と核分配との関連について解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の当初の計画では、MGが核分配に関与するマシナリー(スピンドル極体、Bik1、Bim1、Kar9など)の局在や配向性、ならびにホスファチジルイノシトール分子種レベルに及ぼす影響を検討する予定であった。これらのうち、後者については「研究成果の概要」欄に記した通り、MG処理によるPI(3,5)P2レベルの上昇とAtg18の液胞膜局在が核分配停止に重要な要因として働いていることを発見し、本年度はそのことを中心に研究を行ったため、本年度の使用予定金額と差が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
Atg18を強制的に液胞膜局在させた際に核分配の停止が起こるかどうかを確認することで、MGによる核分配停止におけるAtg18の役割を明らかにするため、Atg18と液胞膜貫通型アルカリホスファターゼ(ALP)との融合タンパク質Atg18-ALPの構築と、その結果を学会ならびに論文で発表するための経費に充てる。
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