活性汚泥にケイ酸を主とするミネラルを添加するとBacillus属細菌が優占化し、余剰汚泥が減少することが経験的に知られていたが、そのメカニズムは不明であった。一方、我々は、一部のBacillus属細菌が培養液中のケイ酸を取り込み胞子膜上にシリカとして蓄積することを独自に明らかにした。これらの知見を合わせると、Bacillus属細菌が環境中のケイ酸を取り込み胞子のストレス耐性を向上することで、生存率を高めて優占化すると いう新奇の生存戦略が浮かび上がる。平成25年度の研究では、この仮説を実験的に検証するため、ラボスケールでの活性汚泥装置を作製し、下水処理施設の活性汚泥を種菌として運転を行ったが、ケイ酸添加によるBacillus属細菌優占化が観察されなかった。実際の廃水処理プロセスでのBacillus属細菌優占化の報告例は多いものの、ラボスケールでの再現についてはこれまでに報告がないことから、スケールの違いやそれに起因するなんらかの条件がBacillus属細菌優占化に必要である可能性が示唆された。 一方、シリカを蓄積したBacillus属細菌胞子のストレス耐性の評価を行ったところ、シリカ蓄積胞子は塩素耐性が有意に向上していることが明らかとなった。本年度は、シリカ蓄積と塩素耐性の関係について詳細に解析を行い、胞子に蓄積されるシリカの量と塩素耐性向上の度合いとの間に正の相関があることを見出した。一部のBacillus属細菌優占化プロセスでは返送汚泥の塩素処理を経ているため、シリカ蓄積による塩素耐性の向上が、活性汚泥中でのBacillus属細菌優占化に関与している可能性が示唆された。
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