研究課題/領域番号 |
25660066
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
大坪 和香子 東北学院大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (00598203)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | コガタルリハムシ / シュウ酸 / 腸内細菌叢 / 16S rRNA遺伝子 / T-RFLP |
研究概要 |
コガタルリハムシの腸内フローラの群集構造を明らかにすることを目的とし、野外の2地点および研究室の飼育条件において採集したコガタルリハムシの3齢幼虫の腸を採取し、それぞれからDNAを抽出した。これらの腸DNAを鋳型として、16S rRNA遺伝子のT-RFLP解析を行ったところ、コガタルリハムシの腸内細菌叢は、採集地点間の群集構造の多様性が高く、T-RFの数や制限酵素切断部位に差異が見られた。一方で、共通のT-RFが複数存在し、いずれも優勢的であったことから、これらの細菌を同定するために16S rRNA遺伝子のクローニングおよび塩基配列決定を行った。その結果、コガタルリハムシの腸内では腸内細菌科が細菌叢全体の80%以上を占め、優勢化していた。また、腸から採取した消化液中に存在する細菌を、GYP白亜寒天培地およびLB培地を用いて単離を試みたところ、全ての細菌株が、腸内細菌科のKluyvera cryocrescensであった。これらの結果は、乳酸菌が優勢化していた、という先行研究の結果と異なっていたために、さらに解析試料数を増やして16S rRNA遺伝子の解析を行ったところ、同じ3齢幼虫でも、蛹化直前の個体において乳酸菌が優勢化(~70%)していることが明らかになった。 一方、コガタルリハムシの腸内細菌叢においてシュウ酸分解に関与している微生物由来の酵素を明らかにするため、シュウ酸分解の鍵酵素をコードする遺伝子oxdおよびfrcを増幅するプライマーをデザインし、コガタルリハムシの腸DNAを鋳型としたPCR解析を行ったが、産物は得られなかった。 また、コガタルリハムシから抽出した粗タンパク画分を指標細菌株の培養液を混合した寒天培地に置いたろ紙ディスクに滴下して調べた。その結果、粗タンパク画分が複数の土壌由来細菌に対して抗菌性を示すことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請書に記載した研究の目的については、当初の予定よりも達成度はやや遅れていると考えている。その理由は以下の2点である。 1点目は、震災後の県内の土地利用状況が大きく変わり、本来採集する予定であった地域におけるコガタルリハムシの採集が実施できなくなったことである。このため、当初は卵や1齢幼虫を採集する予定であったが、採集場所を変更し3齢幼虫だけを採集することになった。この試料を用いることにより、分子生物学的実験(T-RFLP解析等)、単離培養および抗菌活性の解析、と当初予定していた一連の実験を行うことは可能であったが、単離スクリーニングに使用できる新鮮な個体の確保が困難であったため、当初目的としていた腸内乳酸菌を単離取得することができなかった。 2点目は、本研究事業の申請時において、平成25年度にはコガタルリハムシ幼虫消化管における乳酸菌を含む腸内細菌の蛍光 in situ ハイブリダイゼーション(FISH)法による視覚化をドイツのMax Planck Institute for Terrestrial Microbiologyにおいて行うことを計画していたが、研究費の運用関係上、当該実験を行うのに十分な出張および滞在期間を設けることができなかった。しかし、今年度は研究代表者の所属する研究室においてFISH法を行うことができるように研究代表者が実験設備を確立することができたため、当該実験を今年度前半において実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
上述したように、平成25年度に実施できなかった研究内容として、乳酸菌の単離同定およびコガタルリハムシ幼虫腸内細菌のFISH解析による視覚化の2点を今年度中に実施する。 特に、コガタルリハムシ腸内乳酸菌の単離取得およびシュウ酸分解能の解析は本研究の重要な目的であるため、今年度は飼育条件のコガタルリハムシからの単離を試みる他、コガタルリハムシの消化液および分泌体液から抽出したDNAを鋳型としたメタゲノム解析(ゲノム支援事業申請中)による非培養依存的アプローチによって、シュウ酸分解能を明らかにしたいと考えている。 FISH解析に関しては、今年度採集したコガタルリハムシの腸試料を固定し、乳酸菌および腸内細菌科の16S rRNAに特異的なプローブを用いて視覚化を試みる。 また、土壌由来細菌に対して抗菌性を示したコガタルリハムシの粗タンパク画分を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により精製し、詳細な抗菌活性スペクトルを調べる実験を、研究協力者である小島紀幸博士(東北学院中学高校)との共同研究として行う。さらには、本抗菌ペプチドの病原細菌に対する抗菌活性についても、磯貝恵美子教授(東北大学農学研究科)との共同研究において明らかにする予定でいる。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度に単離取得できなかった乳酸菌株の至適培養条件の決定やシュウ酸分解能の解析に使用する試薬(培地やシュウ酸等)、また同様に前年度に予定していたFISH解析に使用する試薬やスライドガラス等の消耗品を購入しなかったため。 前述したように、前年度行うことができなかった乳酸菌の単離同定およびFISH解析は今年度中に行うため、これらの実験に必要な消耗品費として使用する。
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