研究課題/領域番号 |
25660069
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 独立行政法人農業環境技術研究所 |
研究代表者 |
藤井 毅 独立行政法人農業環境技術研究所, その他部局等, 領域長 (00354100)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 放線菌 / 抗生物質 / キチン / 転写誘導 / メタトランスクリプトーム |
研究概要 |
これまでの研究で、滅菌土壌で生育している放線菌Streptomyces coelicolorの抗生物質生産関連遺伝子群の発現が、キチンによって誘導されることが明らかになった。この知見の普遍性を検証することを目的に、生土壌にキチンを添加した場合に、そこに生息する土壌微生物の抗生物質生産関連遺伝子群の発現が誘導されるか否かを検討するため、土壌から直接抽出したRNA(メタトランスクリプトーム)中の抗生物質生産関連遺伝子の転写産物の検出を試みた。 その結果、キチンパウダーから調整したコロイダルキチンを添加した土壌と添加しなかった土壌を2日間(48時間)及び3日間(72時間)保温した土壌からRNAを抽出し、逆転写反応でcDNAを合成、それを鋳型にして縮重PCR反応を行い、代表的な抗生物質生産関連遺伝子であるポリケタイド合成酵素遺伝子(pks)を増幅したところ、キチンを添加した2日後及び3日後の土壌からのみ増幅断片が得られた。この結果から、土壌に生息する微生物の抗生物質生産がキチンの添加により活性されたことが明らかとなった。さらに、キチン添加後48時間保温した土壌から得られたRNAから増幅したpks遺伝子のPCR産物を、大腸菌にクローニング、得られたクローンのDNA塩基配列を解析した結果、既知pks遺伝子配列に相同性を有する様々な配列バリエーションを持つ新規のpks遺伝子の部分配列であることが明らかとなった。この結果から、キチンを土壌に添加することで、土壌微生物に由来する様々な新規抗生物質関連遺伝子の発現が活性化されることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度、土壌から直接抽出したRNA、いわゆるメタトランスクリプトームを解析することにより、放線菌Streptomyces coelicolorだけででなく、土壌で生育している様々な土壌微生物においてキチンの添加により、抗生物質生産関連遺伝子群の発現が活性化される可能性が示された。この結果は、最近行き詰まっている新規抗生物質の探索研究に、これまで手つかずであった土壌中に生息する難培養微生物という新たな探索源と、土壌メタトランスクリプトームから新規抗生物質生産遺伝子群を得るという全く新しい、抗生物質探索法を提供する可能性を示すものであり、当初の作業仮説が正しかったことが確認できた。3月には、今年度得られた上記研究成果に基づき、「抗生物質生産関連遺伝子のスクリーニング方法」と題して、メタトランスクリプトーム解析から得られた情報を利用して土壌メタゲノムから新規抗生物質生産関連遺伝子をスクリーニングする方法に関する特許を出願することができた(特願2014-042420)。
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今後の研究の推進方策 |
今年度得られた結果に基づき、キチンを添加した土壌から大量にmRNA(土壌メタトランスクリプトーム)を抽出し、微生物mRNAの除去キットを用いてサンプル中に含まれるリボソームRNAを除去しmRNA画分を濃縮、得られたmRNAを次世代シークエンサーで配列解析を行う。次世代DNAシークエンサーを用いた配列解析で得られた配列は、既知の遺伝子配列に対してホモロジー解析を行い、相同性に基づいて分類しアノーテーションを実施、既知の抗生物質生産関連遺伝子と相同性を示す配列のバンクを作成する。得られたバンクに含まれる配列については、その新規性・有効性を検討し、新規抗生物質生産遺伝子として有望な配列情報を抽出する。さらに、特に新規性が高いと思われる配列については、土壌メタゲノムから、抗生物質生産関連遺伝子群全長の取得を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度得られた研究成果に基づく特許の出願を優先させたため、学会発表を行わなかったことから、旅費の使用額が極端に少なり次年度使用額が生じた。 特許の出願がすんだことから、次年度は積極的に学会等で研究成果を発表すると共に、高額な試薬代が必要になるメタトランスクリプトームの配列解析に集中して支出したい。
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