キチン添加後2日後の土壌から抽出したRNAについて、リボソームRNAを除去しmRNA画分を濃縮したサンプルを、次世代シークエンサーを用いてメタトランスクリプトーム配列解析を行った。その結果、残念ながらキチンを添加した土壌に特異的に発現するpks産物を検出することはできなかった。そこで、縮重PCRによってキチン存在下特異的増幅してくるpks産物を次世代シークエンサーで配列解析を試みた。しかし、短い部分配列やギャップを持つpks様配列は得られるものの、機能しているpksと考えられる適当な長さを持つ配列を得ることはできなかった。おそらく縮重PCRで得られた産物のGC含量が高く、エマルジョンPCR反応がうまく進行しなかったことが原因と考えられた。そこで、全年度に引き続きキチン添加後2日間保温した土壌から得られたRNAから増幅したpks遺伝子の縮重PCR産物を、大腸菌にクローニング、得られたクローンのDNA塩基配列を解析した。結果、既知のpks遺伝子と70-80%の相同性を示す新規のpks遺伝子の部分配列を複数得ることができた。このことは、最近行き詰まっている新規抗生物質の探索研究に、これまで手つかずであった土壌中に生息する難培養微生物という新たな探索源と、土壌メタトランスクリプトームから新規抗生物質生産遺伝子群を得る手がかりとなるもので、新規の抗生物質の探索の突破口を開く研究成果である。本挑戦的萌芽研究では、新規pksの候補配列の網羅的な取得はできなかったが、今後、経常研究費等、他の研究費を用いて引き続き土壌中でキチン存在下特異的に発現が誘導される抗生物質生産遺伝子群の解析を続ける予定である。
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