研究概要 |
生物にとって細胞外からの窒素源の取り込みおよび細胞内におけるアミノ酸合成は、生命を維持する重要な代謝機能の一つである。一方、単細胞生物は環境変化に迅速に適応する代謝機構が備わっていることが知られている。例えば、NH4+のような利用しやすい窒素源が存在する場合、アミノ酸などの利用しにくい窒素源の取り込みが阻害される。本研究ではモデル生物として有用な分裂酵母の環境変化に適応する代謝機構を明らかにすることを目的として、下記の2テーマについて研究を行った。先行研究で分裂酵母のeca39Δ株(分岐鎖アミノ酸(BCAA)アミノ基転移酵素遺伝子破壊株)における窒素源の取り込みについて、NH4+およびBCAA添加培地では生育不可能、グルタミン酸添加培地では野生株の近傍でのみ生育可能という極めて興味深い発見をした。そこで、この窒素源の取り込みに関して細胞間で行われている情報交換の詳細を明らかにすることを目的として、何らかの“分泌ファクター”の存在を仮定し、その実体もしくはコード遺伝子の同定を目指して研究を行った。コード遺伝子の同定について分裂酵母の遺伝子破壊株ライブラリー(約3,000株)および遺伝子過剰発現株(約5,000株)ライブラリーを用いて、グルタミン酸添加培地上でeca39Δ株の増殖が回復しない株のスクリーニングを行った。その結果、13遺伝子破壊株および19遺伝子過剰発現株が見出され、これらはグルタミン酸添加培地上でeca39Δ株の増殖回復を促す“分泌ファクター”に関係のある遺伝子である可能性が示唆された。“分泌ファクター”そのものの同定について、eca39Δ株の増殖を回復させる活性成分の存在が明らかになった野生株の培養上清および菌体分画を用いて、様々な有機溶媒による分画およびpH依存性を調べた。その結果、“分泌ファクター”は酸性の脂溶性分子であると考えられた。
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