酵母は細胞膜上にある透過酵素を介して様々な窒素源を取り込み、利用する。細胞が利用しやすい質の良い窒素源(アンモニア、グルタミン酸等)が培地中に存在するときには、窒素源として利用しにくいアミノ酸の取り込みは阻害される。分裂酵母において、eca39遺伝子は分岐鎖アミノ酸(Branched-chain amino acid; BCAA)アミノ基転移酵素をコードし、BCAA(ロイシン、イソロイシン、バリン)を合成する唯一の経路の最終段階の反応を触媒する。eca39遺伝子の破壊株(eca39Δ株)はグルタミン酸を含む培地上において、BCAAが含まれていても取り込みが阻害され、生育不可能となった。しかしながら、同様の培地条件であっても、野生株の近傍においてはeca39Δ株が生育可能となる適応現象を偶然に見出した。この現象は、野生株から細胞外へ分泌された何らかの物質(分泌ファクター)により、eca39Δ株におけるアミノ酸の取り込み能が回復することで引き起こされたと考えられる。平成26年度は、生化学的手法を用いて「分泌ファクター」の同定を試みた。培養上清の抽出液を用いて、様々な溶媒による分画を行い、pH依存性も試験したところ、分泌ファクターは酸性の脂溶性分子であることがわかった。そこで培養上清中の「分泌ファクター」を酢酸エチルで抽出後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーおよびHPLCで分画・精製した活性画分についてLC/MS及びNMRで解析し、化合物を2種同定した。現在、これらの化合物を合成して活性を確認中である。本結果は、分裂酵母において化合物(分泌ファクター)を介した窒素源確保のための細胞間情報交換システムが存在することを示唆する。前年度にスクリーニングを行った分泌ファクター生成等に関連する遺伝子群と合わせて解析を進めていくことにより、このシステムのメカニズム詳細を明らかにしていきたい。
|