研究課題
挑戦的萌芽研究
①Prairie vole(米国産平原ハタネズミ:以後Voleと省略)iPS細胞の開発とマウス・Vole種間キメラ形成の試み :生殖系列への移行が可能なVole iPS(v.iPS)細胞の樹立 Vole繁殖が不調の為に、新鮮な胎児由来繊維芽細胞の供給が難しい状況が続いた。この為、成獣より繊維芽細胞を得て、hTERT、変異CDK4、CyclinD1の導入による不死化を図った。この結果、恐らく世界で初めVole由来不死化繊維芽細胞を得た。この不死化VEFに対し、3因子法、4因子法、及び6因子法を用い、v.iPS細胞の樹立を計った。マウスiPS細胞が樹立できる条件で、v.iPS細胞の樹立に至っていない。v.iPS細胞樹立に付加的に必要と思われる因子・条件は不明である。マウス、及びヒト由来のiPS細胞樹立用転写因子が、Vole細胞初期化では上手く機能しない可能性を検討している。一方、本研究では、東京大学医科学研究所で3因子法により得られたVole iPS細胞株があり、これをDmrt7(-/-)雌 x Dmrt7(+/-)雄の交配により得た受精卵(胚盤胞)へ導入し、種間キメラ作成に依るマウス精巣でのVole精子造成に取り組んだ。この結果雄個体が何匹か得られており、現在その精巣精子DNAの遺伝子型解析を準備している。②CRISPR/Cas9法による遺伝子破壊・変換Vole作成ベクターの作成:此の研究申請時には想定していなかった実験手法だが、昨年くらいから原核・真核を問わない有効な遺伝子変換法として急速に普及しつつある極めて有力な方法であり、遺伝子KO,ノックインVole作成に有効と思われ、CRISPR/Cas9法によるVoleの遺伝子変換に着手した。当該法は極めて迅速でまた有効な為、26年度は当該方法を優先して遺伝子変換・KO Voleの作成に取り組む予定とする。
3: やや遅れている
新規ハタネズミiPS細胞樹立と、ハタネズミiPS細胞を利用したハタネズミ・マウス間種間キメラ形成によるハタネズミ精子の作成計画は、当初予定していたよりは遅延している事は否めない。しかし、世界で初めての不死化ハタネズミ繊維芽細胞の樹立にこぎつけ、今後ハタネズミに関する研究でハタネズミ由来の細胞が使用できるようになった事は大きな成果である。
ES細胞やiPS細胞中の遺伝子を相同組み替えを利用して破壊し、或いは所定の遺伝子を挿入する旧来の方法に比べ、ここ数年で急速に開発が進んでいるZinc Finger Nuclease法、TALEN法やCRISPR/Cas9法は、極めて迅速な遺伝子変換手法である。TALEN法とZinc Finger Nuclease法は、人工ヌクレアーゼの設計に時間がかかり、またZinc Finger Nuclease法は企業に注文するため有料であるが、CRISPR/Cas9法は、切断ベクターの設計が短時間に出来、又必要な合成DNA等のコストも小さいのでCRISPR/Cas9法を中心に、IO電子変換Vole作成を進めていく。この技術では、受精卵の細胞質にin vitroで転写したRNAを注入する技術が必要だが、この技術はES細胞を用いた遺伝しKOマウス作成の場合のES細胞injectionと異なる技術のため、この技術に精通した経験者からの技術習得を必要とする可能性もある。Voleの遺伝子変換・KO作成をゴールとし、新たな方法であるCRISPR/Cas9法を導入し、極めて速いスピードでの実験進行を目論んでいる。発表されているVole ドラフトゲノム配列data baseから最初の標的と考えているオキシトシン受容体遺伝子配列を得ており、CRISPR/Cas9法によるノックインベクター設計は終わった。また、一時期不調であったVoleの飼育に関しては植物性飼料を含む動物園用(像用)の固形飼料を導入したところ、Voleの繁殖が順調になると言う好結果を得ており、更にVoleの飼育と繁殖に適した飼料の検討を行う。
到達度の欄で説明した様に、使用飼料の問題と、繁殖・飼育担当者の不適切な対応から、一時的に此の研究で一番大事である実験材料・生物資産であるハタネズミ繁殖が危機的な状況となり、各研究への材料供給が停止しかかった。この為、各実験の進行もほぼ停止状態となった。このハタネズミは、北米産であり、国内での繁殖実績も殆ど無く、又業者からの購入も不可能であり、当該研究室での繁殖回復を待つ以外に方法がなかった。幸い、繁殖担当者の交代と、複数担当者責任制の導入、植物性飼料への変更が功を奏し、25年度後半には再び繁殖が再開した。現在はハタネズミ個体数は順調に回復・増加し、iPS細胞樹立のための新規繊維芽細胞供給や、CRISPR/Cas9法への受精卵供給、同じく同法に於ける疑妊娠ハタネズミ供給へのめども立ちつつあり、26年度には研究を全面的に進められる情況が整いつつある。新規に導入した植物性成分を含む固形飼料は、像等の動物園での草食動物飼育用の特殊なものであり、通常の齧歯類用の物に比べ高額である。また、ハタネズミの順調な繁殖を立て直し、さらに研究推進に充分なハタネズミ個体を供給する態勢を確保する為にも、専用大型齧歯類ケージの更なる購入が必要となりる。さらに、ハタネズミiPS細胞樹立と並行して、ハタネズミ胚盤胞からのES細胞樹立を計画しており、同じくハタネズミ細胞、又はハタネズミ受精卵遺伝子のCRISPR/Cas9法によるRNA導入を用いた遺伝子変換に取り組む予定であるが。これらの実験は何れも高価な成長因子とインヒビター(ハタネズミ胚盤胞からのES細胞樹立)、或いはin vitro mRNA転写キット(CRISPR/Cas9法)など、高価な試薬の購入を必要とする。従って本年度、繰越金も含め本研究資は必要であり、余剰金が発生する可能性は無い。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
In Vitro Cell Dev Biol Anim
巻: 48 ページ: 660-665
10.1007/s11626-012-9565-1
Anal Biochem
巻: 443 ページ: 104-112
10.1016/j.ab.2013.08.014