メタンやメタノール、ホルムアルデヒドなどのC1化合物を炭素源・エネルギー源として利用するC1微生物が持つ、C1代謝系酵素遺伝子や、遺伝子発現制御機構・代謝制御システムを宿主生物に導入し、メタノールやホルムアルデヒドを有用物質生産のための培養原料だけでなく制御物質としても利用する新しい代謝工学技術を確立することを目的に、本年度はホルムアルデヒド固定代謝経路を導入した大腸菌、メタノール資化性細菌の代謝解析と、新規宿主細胞への導入を行った。大腸菌導入株については、他のC1代謝系も同時に導入した株を構築し、連続反応による新規代謝系の構築に成功した。メタノール資化性細菌については、発現に用いるプロモーターの強弱により、代謝フローが大きく変動することをメタボローム解析により明らかにした。 一方、メタノール資化性酵母のメタノール誘導性遺伝子発現制御ユニットを異種生物へ導入する際に必要な基盤的知見を得るために、発現制御に関わる転写因子の機能解析に加えて、メタノール誘導性遺伝子発現におけるシグナル伝達に関与する新規因子として見出した細胞膜センサータンパク質(Wscファミリータンパク質)の機能解析を行った。当該タンパク質をコードする遺伝子破壊株では、メタノール培養時に顕著な生育遅延が観察され、メタノール誘導性遺伝子の転写レベルが低下していた。さらに、メタノール培養時の遺伝子破壊株ではホルムアルデヒドが蓄積していたことから、当該タンパク質は培地中のメタノール濃度に応じてメタノール代謝系酵素の遺伝子発現を制御し、メタノール代謝の中でも特にホルムアルデヒド代謝に重要な役割を果たすことが示唆された。
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