本研究は、微生物発酵などで行われてきた代謝工学の理論を高等植物に導入し、合理的な代謝改変を行って短期間に目的とする作物を開発することを最終目標とする。微生物などの単細胞生物で、代謝物数の少ない小さい代謝系を対象に用いられてきたフラックスバランス解析(FBA)やバイオケミカルシステム理論(BST)を、高等植物のゲノムスケールの代謝系に適用し、グルコシノレートなどの健康機能成分の生合成経路のボトルネックや不要な経路を予測して実験的に検証することを目的としている。 平成27年度は、前年度に確立した薬剤添加により誘導される遺伝子過剰発現株および遺伝子機能破壊株を主に用いて解析を行なった。BSTにより構築したシロイヌナズナのアミノ酸代謝の数理モデルを用い、当該遺伝子の過剰発現および機能破壊による代謝変動のシミュレーションを行ったところ、実際に観察されたアミノ酸量の変動と部分的な不一致が認められた。この不一致を説明するための数理解析を行ない、これまでに知られていない遺伝子発現制御を予測し、実験的に検証することができた。また、特定の有用アミノ酸の蓄積量を増大させるためのボトルネックを予測した。以上の結果を論文にまとめ、近く投稿予定である。
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